ルーブル暴落ショック、「ロシア売り」止まず 原油価格下落が引き起こす、ロシアの窮地

拡大
縮小

経済への影響という点から懸念されるのは、ロシア通貨危機が世界金融危機に発展した、1997~98年の再来がありうるかということだ。もっとも、市場関係者は今のところ、その可能性は低いと見ている。

第一の理由はロシアがその後、外貨準備高を積み上げ、約3700億ドルあること。これはロシアの月平均輸入額の15カ月分に相当する。民間債務は2000億ドル程度で余裕がある。ただし、相次ぐ通貨介入でその減少は避けられず、原油安がどこまで長引くかに懸かる。

第二にロシアに対する海外銀行の与信の規模が小さいこと。特にロシアと関係が深く景気が低迷している欧州は不安視されるところだが、みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは「14年6月末のBIS(国際決済銀行)統計によれば、欧州系銀行の与信の55%は欧州域内向けであり、ロシア向けは1%未満にすぎない」と説明する。

第三に米国が利上げに慎重で、日本や欧州も金融緩和拡大方向にあり、新興諸国からの資金の急激な巻き戻しは起こりにくいと考えられること。米国が金融緩和からの脱却を示唆してから1年半、ウクライナ危機からも1年近くが経過しており、すでにリスク削減も一定程度進んでいるとみられる。

根本には世界的な需要低迷

度重なる金融危機を経て、中央銀行によるドルの相互供給、銀行の資本規制強化など、リスク伝播を遮断する仕組みが整備されたのも、1990年代との違いだ。ただ、それでも新興国への影響は懸念される。一時はフラジャイル5(脆弱な5カ国)と呼ばれた、南アフリカ共和国、トルコ、ブラジル、インドネシア、インドなどもある。こうした国の制度整備は未だ道半ばだ。

第一生命経済研究所の西濱徹主任エコノミストは、「足元では国ごとに努力して、経常赤字の圧縮が進んでいる国もあるが、そうでない国もある。ロシアをめぐる状況が一段と悪化した場合は、これらが標的にされるリスクもある」と警告する。98年に破綻した米LTCMのように、規制の枠から外れたところで、ロシアや新興国向けの与信を過度に抱えるヘッジファンドが存在しないかどうかも、気になるところだ。

原油安の根元には、世界的な需要低迷がある。米国経済の回復以外に好材料がなく、欧州経済は停滞が続き、新興国も中国を中心に成長が鈍化している。世界の実体経済が弱い中で、あふれるマネーが市場を不安定化させる。ロシア危機が終わりの始まりとならなければよいのだが。

「週刊東洋経済」12月27日‐1月3日号(12月22日発売)核心リポート01を転載)

大崎 明子 東洋経済 編集委員

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT