知的誠実さにあふれた第一級の外交史
評者 福山大学経済学部教授 中沢孝夫
今日本で発言がつねに注目されている人物の一人に北岡伸一氏がいる。この新著は同氏の専門とする領域の論集である。
米国の理念による国際社会とのかかわりと、欧米から一歩遅れて国際社会に登場した日本の国際秩序へのかかわりを、公文書や関係者の発言にあたうかぎり触れながら、くっきりと描き出している。通底するのは、どの国の利益にもつながる交易の自由としての「門戸開放」である。
国益とは自国の安全保障と経済的利益の確保が中心だが、それは単にリアリズムだけではなく、理念(時には情念)によって支えられる。しかし理念は往々にして、現実と衝突する。また歴史に登場するさまざまな国家や個人というアクターは、自己利益と自らが属する組織の利益を優先する。本書に「啓発された自己利益か」「むきだしの自己利益か」とあるが、歴史にはエゴイズムとしての後者の優先が多々見られる。
また国際問題に限らず国内問題でも同様だが、よくないこと、不快なことがあるからといって、それを否定しても、思った結果につながらないのはいうまでもない。
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