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あなたの家にもある残薬 止まらない過剰投薬の現実

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「薬が足りへんやないか!」。大阪府内の薬局に、70代の男性から電話が入った。薬剤師の福井繁雄氏は、足りないと言われた薬を届けようと、男性宅に駆け付けた。

男性は湯飲みを10個ほどテーブルにずらりと並べ、その中に処方された薬を種類別に分けて入れていた。だが、一つの湯飲みに数種類の薬が入っている。色や形の似ている薬を混同していたのだ。男性は「薬の数が合わない」と思い込み、薬局に電話をしたという。

しかし、よく見ると男性が分けているのは数週間前にもらった薬。家の中を見回すと、その後に処方された薬が、ビニール袋に入ったまま放置されていた。薬は足りないどころか、大量に余っていた。この男性は薬を分けるだけで満足し、風邪薬など効果がすぐに出る薬は飲んでも、それ以外の薬は飲み忘れていた。

これは特殊なケースではない。福井氏は在宅指導の中で、薬が飲み残されている現状を何度も目にした。「1日3食取る習慣のない人の場合は、毎食後に飲むべき薬を余らせてしまう。さらに、がん患者などの場合、飲み薬を飲み込むこと自体がつらく、薬を敬遠してしまう」と福井氏は話す。

薬剤師の福井繁雄氏が5軒の在宅訪問で回収した残薬。抗がん剤や漢方薬などが余っていた

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残薬の背景にある余りやすい構造

日本薬剤師会によれば、飲み忘れなどで積み重なった残薬の薬剤費は年間約500億円に上る。

残薬の原因の一つは、薬が一度に大量に処方されることだ。2002年以降、長期投与の制限が緩和され、慢性疾患では30日分、90日分といった処方がなされている。高齢者にとっては、大量の薬を数カ月の間、正しく服用するのは至難の業だ。

もう一つは残薬の実態が医師に届きにくいこと。「薬は飲めていますか?」という医師の問いかけに、本当は飲んでいなくても「はい」と答えてしまう患者は少なくない。薬を飲んでいるものと思い込んだ医師は、症状の改善が見られなければ、さらに薬を増やそうと考える。

そもそも医師には、薬を増やしてしまいがちな側面がある。医師として診察も行う日本在宅薬学会の狹間研至理事長は、認知症の女性患者を定期的に診察していたが、ある日急に「家に男の人が3人来る」と幻覚症状を訴えるようになった。狹間氏はそれを聞いて認知症が悪化したと思い、薬を増やそうとした。

ところがその後、薬剤師から「以前に処方された睡眠薬の副作用で、幻覚の症状が出ている可能性がある」との連絡を受けた。そこで睡眠薬をやめると、幻覚は消えた。「医師は症状を聞くと、とにかくその症状を抑える薬を出す。別の薬の副作用だとは思い至らないこともある」(狹間氏)。このケースでは薬剤師の機転が多剤投与を食い止めたが、医師の処方をそのまま受け入れる薬剤師も中にはいる。

医療機関と薬局、そして患者が分断されがちな現在の医療の状況を、残薬の問題は端的に示している。

末期がん患者が使用していた医療用麻薬。患者の死亡で残薬となる
複数の薬局でもらった薬が混在。似た色の薬を間違えて飲むことも
薬局で捨てられる期限切れの薬。処方数が少ない薬は余ってしまう
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