同時代を見事に映す 知の獲得の個人史
評者 福山大学経済学部教授 中沢孝夫
著者の「知の獲得」の個人史が、そのまま現代経済学への問いと理解への解説になっている。交流した多彩な人物像を含め、経済学の巨人たちの思想を消化し、再構築してきた著者の思想の厚みは圧倒的である。
著者は、自らが取り組んできた、不均衡動学や貨幣論あるいは資本主義論が「経済学の主流から離れている」としているが、評者にはそれはわからない。また本書によると「現代アメリカにおいてはほとんどの大学には『経済学史』という科目は存在しない」という。しかし最終章でアリストテレスを再読する部分を読むと歴史のもつ意味に改めて感慨を覚える。
著者は、アリストテレスを紹介しながら、貨幣とは本来「モノとの交換のために発生した」はずなのに「貨幣それ自体を目的とするようになる」。つまり貨幣を手に入れるためにモノを売買するようになる、と指摘している。それは具体的なモノに還元できない、可能性という「無限への欲望」への経済活動だ。それが資本主義であると説く。読者としてとても納得がいく。
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