廃線危機脱出、「ひたちなか海浜鉄道」の奇跡 52年ぶり新駅、地方鉄道再生のヒントが満載

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柳が丘地区では高齢化が進んでおり、住民は不便を強いられていた。だが、当時の湊線は利用者が年々減少し、廃止が現実味を持って語られていた時期。とても新駅設置を要望できるような雰囲気ではなかった。

高田の鉄橋駅に到着する下り列車。背後に見える住宅地が、駅設置のきっかけとなった柳が丘団地

流れが変わったのは、やはりひたちなか海浜鉄道が発足してからだ。住民の間に「自分たちの鉄道」「町のシンボル」という意識が根付き、利用者数は増加に転じた。

開業3年目の2011年に発生した東日本大震災では、長期の運休を余儀なくされたが、国と自治体による全面的な支援によって4カ月後に全線復旧。やがて湊線は、ひたちなか市の「町づくりと復興のシンボル」となった。

柳が丘地区の自治会が、正式に文書で新駅設置を要望してきたのは、その頃のことだ。同鉄道の吉田千秋社長は、「とうとう来たか、という思いだった」と振り返る。

新駅3000万円は、国の支援制度を活用

新駅の設置は、会社として大きな投資となるが、同時に住民が鉄道の将来性を認めた証しでもある。早速、同社では全国の地方鉄道の事例を調べ、建設にかかる費用を検討した。ホーム1線だけのシンプルな駅だが、バリアフリーのスロープ建設や工事中の監督員の人件費、周辺の踏切の調整など多方面にコストがかかり、約3000万円必要と試算された。

新駅の場所は、当初の要望では柳が丘地区最寄りの農耕地とされていた。だが、そこは中丸川がたびたび氾濫し地盤が軟弱な土地だった。ホームを設置するだけの土地を買収し、取り付け道路も整備しなくてはならず、現実的とは言えなかった。そこで、柳が丘地区からはやや離れるが、海浜鉄道所有の土地があり、商業施設にも近い「国道交差部」が、最も費用対効果の高い場所として選ばれた。

ただ、それでも想定される新駅の乗降人数は1日40人程度にすぎない。全額事業者負担で建設するには過剰投資である。そこで、国土交通省の幹線鉄道等活性化事業費補助制度を活用することにした。

幹線鉄道等活性化事業費補助制度、通称「コミュニティー・レール化」とは、需要が見込まれるが自社による投資が難しい鉄道に対し、国と地方公共団体が3分の1ずつ補助を行う制度だ。

だが、地方鉄道は投資どころではない所がほとんどで、この制度を利用する事業者は少なかった。国から見れば、海浜鉄道の新駅は国のバックアップによって鉄道が元気になる貴重な事例となりうる。認可へ向けた手続きはスムーズに進み、国と茨城県が1000万円ずつ補助し、残る1000万円の事業者負担分も大部分を、ひたちなか市が負担することになった。

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