漢方は“何か困ることはありませんか”が口火--『西洋医がすすめる漢方』を書いた新見正則氏(帝京大学医学部准教授)に聞く
原因ではなく症状を診て対処する漢方治療は、「決してうさんくさいものではない」。英国オックスフォード大学で博士号を取った外科医が、多様な患者と向き合う中で「実践」してきた漢方の魅力を語り、常備薬としての活用を勧める。
──健康保険適用の製剤が150近くあるのに、漢方の効能は知られていません。
漢方のよさがまだまだ伝わってない。以前は私もうさんくさいと思っていたし、保険適用から30年経った今でも、病院で使える医薬品だという認識のない人がまだいる。
漢方の先生は西洋医学の先生にいじめられがちなので、かえって敵対心を持つ。今の医学はこんなにダメだ、漢方を使えと真っ向からつい主張してしまう。そうではなく、西洋医学で対処できないところを漢方で直す、相互補完でいいと思っている。
──相互補完で生かす……。
医者に行って、「どうしましたか」と言われても、「何か困ることはありませんか」とは言われない。医学が進んでも治らないものがあるから、西洋医は絶対にそういう言葉は投げられない。自分の診療科を超える山ほどの訴えを切り出されても、投げ返せる球は決まっているので、上手な西洋医ほど、そういう立ち居振る舞いになる。
ところが、漢方があればどんな訴えも一応聞いてあげられる。しかも、そんなに難しいものではない。江戸時代からずっとあったもので、現代風の物理や化学や数学といったものの知識や理解は一切なくていい。歴史の積み重ねを知れば、そのすばらしさはわかる。
──症状を診て対処する治療法だからですね。
漢方の欠点は、今風の病名がいらない代わりに有効率が高くないこと。その処方が適さないこともある。たとえば胃潰瘍であればよく知られた薬品がある。それは胃潰瘍に効くに決まっている。胃潰瘍のシステムを直すものなのだから。漢方はその作用機序がブラックボックス。病名なしで症状からその緩和へと結び付ける。それが漢方の利点であり欠点だ。