乙女の密告 赤染晶子著

乙女の密告 赤染晶子著

『アンネの日記』を主題に乙女と呼ばれるドイツ語を履修する学生たちと、人形を溺愛する変なドイツ人教授の物語。スピーチコンテストの準備に翻弄される乙女たちと、おかしくも真剣な教授とのやり取りを軸に、テンポよくコミカルに話は進む。乙女のリーダーが教授との仲を疑われる事件が発生し、誰が密告したのかをめぐって状況は深刻化し始めるが、これがアンネ・フランクを誰がドイツ軍に密告したのかという歴史的事実と重なり合う。

乙女たちの中に密告者がいるのは確かだが、真相を求めての意外な展開の裏に自己と他者という哲学的な問題提起があり、乙女たち同様、『日記』の重要箇所に再三、立ち戻ることを読者は要求されるだろう。問われる問題の重さと軽妙な文章が不思議なバランスを保った、異色の芥川賞受賞作。祖国という問題はアンネの世界では重く広がるが、乙女たちの世界ではどうか。さまざまに思いを馳せることのできる作品だ。(純)

新潮社1260円

  

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