コロナ禍で「いじめ件数」減少でも油断できない訳 荻上チキが語る「いじめが起きやすい学校」と対策
「悪いことをした子どもにただ罰を与える担任のクラスでは、いじめが起こりやすくなります。ペナルティーのある監視環境では教員の存在自体もストレス要因になるし、理由があれば他者を攻撃していいという誤ったメッセージを示してしまうからです」
子どもたちがフェアな大人だと判断した担任のクラスでは、教員のいないところでもいじめが起きにくい。「先生を裏切りたくない、がっかりされたくない」という思いから、子どもたち自身の行動が変わるのだ。
教員も保護者も、大人の学びなくしていじめはなくならない
荻上氏はまた、とくにいじめが起きやすい場所やタイミングにも注意が必要だと続ける。
「中学校に上がると、教員の目が届きにくい部活動やインターネット上でのいじめが急増し、いじめの『ホットスポット(危険地点)』になります。また学校行事や夏休み明けなど、とくにいじめが増える時期もあります。部活指導やネット利用については個別の対策が必要ですし、吃音や性的マイノリティーなど、いじめにおいてハイリスクな特性のある人への理解を深めることも欠かせません」
あらかじめ、周囲の大人がいじめの特徴を理解しておくことが大切ということだ。その意味でも、教員が担う役割はやはり大きいといえるだろう。さらに荻上氏は、教員の多忙もいじめの発生要因の1つだと指摘する。
「日本の教育現場では、改革の名の下に教員の仕事が増えるばかりです。コロナ禍でも、教室の消毒やオンライン授業の準備など、やることがさらに増えたケースもあるでしょう。海外では、教員への指導を含めたさまざまないじめ防止プログラムが導入され、効果を上げています。でも日本の先生たちには、こうしたトレーニングを受ける時間もありません」
教員だけでの対応が難しければ、スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラー、また保護者などが参画し、いじめ対応の知識やスキルを向上させる方法もある。効果が実証されているこれらの取り組みを、1つずつ試しながら導入していくのが現実的だと荻上氏は話す。その中には保護者ができることも多いという。
「いじめの被害者・加害者の親が対立するのではなく、目撃者も含めて、それぞれが協力して『チーム子育て』を結成できれば、いちばんいい。子どもが保育園や幼稚園にいた頃は保護者同士も担任も密に連携していたはずですが、小学校に上がると急にその関係がなくなってしまいます」
感情の面からなかなか実現が難しいこともあるかもしれないが、本来は保護者同士も一丸となって取り組むことが理想だという。とくに保護者がいじめの早期発見で果たす役割は大きい。また、自分の子どもを加害者にしないためには、家庭でのストレスを減らすことも重要だ。
「保護者とはいえ、技術的なメンタルケアができるわけではありません。保護者ができることは、まずどんな選択肢があるかを学び、いじめの対策チームなど専門的な知識を持つ組織に子どもをつなげること。そして、わが子が加害者であろうと被害者であろうと、共に安心して成長と生活ができる場所があるのだと伝え続けること。身近な人間だからこそできることというのは、決して小さなものではないのです」
保護者が日頃から愛情を持って見守ればこそ、「いつもとちょっと違うな」と、子どもの異変にも気づくことができる。日常のこうした姿勢が、いじめによる自殺という最悪の事態を回避することにもつながっていくだろう。
大人の社会でも悪質ないじめが問題になるほどに、いじめはなかなかなくならない。だからこそ、まずはいじめによるダメージを最小限にするための早期発見と、スピーディーな初期対応が大切だ。こうした取り組みに、その後の検証も含めたサイクルをつくることが、同様のいじめを防ぐ備えにもなる。
(文:鈴木絢子、注記のない写真:PIXTA)
制作:東洋経済education × ICT編集チーム
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら