コロナ禍で「いじめ件数」減少でも油断できない訳 荻上チキが語る「いじめが起きやすい学校」と対策

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友達と会う機会が減ったり、行動様式が変化したり。こうしたコロナ禍のストレスから、2020年度にはいじめが増えることも懸念されていた。だが実際には、学校行事というストレス蓄積の「機会」が減ったことで、いじめ認知件数は減少したとみられる。ただしこれはあくまで認知された件数にすぎない。報告が遅れているいじめがある可能性もあるため、注意深く見る必要があると荻上氏は強調する。

「いじめの認知件数は氷山の一角にすぎません。コロナ禍で接触が減っているのは教員も同様で、そもそも発見の機会自体が減っている可能性があります。国の認知件数からは、得られる知見は少ないのです」

いじめはなぜ起こるのか。荻上氏は、いじめを「ストレス発散の1つとして行われるもの」だと話す。クラスや部活動など、簡単に逃げられない関係・環境下で継続的に行われ、ストレスが上昇して解消する代替手段がないときに、軽度なものから始まって徐々にエスカレートしていく。

ただ、13年にいじめ防止対策推進法が施行され、いじめ対策のルールがいわゆる「フォーマット化」された。いじめに関する行動計画を各学校に任せるのではなく、そのやり方を法で定めようというわけだ。文科省の調査では15年度からいじめ認知件数の増加が加速しているが、これは法整備によっていじめに対する認識が改まり、発見される件数が増えたことを示している。

「いじめ防止対策推進法第22条では、平常時から外部と連携したいじめ対策の組織を置くことが定められ、担任教員が1人でいじめ問題を抱え込むことが禁止されました。また第28条では、いじめが疑われる『重大事態』が発生した際、速やかに調査を行う組織委員会を立ち上げることが義務づけられています。従来は、いじめが発生すると、被害者や加害者の成育過程など個人のことばかりが取り沙汰されてきましたが、これにより、この22条委員会と28条委員会がどう機能したかということを客観的に検証することができるようになりました」

いじめ事件はその痛ましさからセンセーショナルに報道されるが、メディアも世間も、喉元を過ぎればその熱さを忘れてしまう。また、過熱報道で、いじめの被害者や加害者個人の情報を掘り下げることは、いじめの理由を認めることにつながりかねない。なぜ、その教室でいじめが起きたのか。複合的な環境要因を理解しなければ、再発防止にも生かせないだろう。

荻上氏は、いじめ問題がとかく感情論や精神論、個人の憶測で語られがちなことへの危惧から「意図的かつシステマチックな対策が機能していたかを見るべきだ」と強調する。そのためには、まず論点のブレやすい感情論を排除し、いじめが発見された後、校長や教育委員会に速やかに共有されたのか、22条委員会や28条委員会がどのタイミングで組織されたのか、きちんと機能したのかを検証することが重要だという。

いじめが起きやすい教室、起きにくい教室の決定的な差

では、いじめを減らすにはどうすればいいのだろう。いじめはどのような環境で起きやすく、どんな取り組みで防ぐことができるのか。

「研究の根拠が手堅いとされる対策の1つが、スーパービジョンと呼ばれるもの。つまりは物理的な見守りですね。教員が子どもたちの状況をよく見られる体制を強化し、かといって限定的な監視と受け取られないよう、子どもたちとの間に信頼関係を築くことです」と荻上氏は話す。

子どもはしばしば、すべての教師をいじめ解決の役に立たない存在だと思ってしまうという。実際には、7割近いいじめが相談によって改善しているというデータもあるが、教員への信頼がなく相談につながらなければ、いじめは発見されないまま。「相談の割合を上げること、目撃者による通報などの手段も活用すること、学校の外部への相談を可能にすること、友人間でのサポート手段も拡充すること。いじめのエスカレートを防ぐためにも、早期発見の議論はとても重要です」

また、単純に介入の頻度が増えるだけで、改善の度合いもさらに上がることがわかっている。こうしたこまやかな観察眼だけでなく、教員がどのような「教室の集団規範」を示すかもポイントだ。

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