茜色の空 辻井喬著
「アーウー」宰相と言われ、けれん味はなかったが、日本の政治家には珍しく哲学や歴史観をもち国際感覚豊かな教養人でもあった大平正芳。生い立ちから大蔵省時代、政治の世界への転身、そして宏池会幹部から首相となり選挙戦で急死するまでを、生臭い政局と葛藤する心情を縦横にからませながら描いたノンフィクション小説である。酒も飲めず浮いた噂もなかったクリスチャン政治家の世界に、架空の人物、大平を慕う娘のような女性秘書を登場させて彩りを添えている。
抑えた筆致で政治家の内面に入り込もうとする試みが、自省型の政治家にマッチして好ましい。権力闘争の波にもまれる半生にもかかわらず、無欲で穏やかな心象風景が広がる。政治にとって最も重要なはずの政治家の志が通奏低音のように流れ、国民の目線に常に立ち返る政治、国の形を重視する政治という、一政治家が抱いた、昨今の政界から失われて久しい課題を改めて考えさせられる。(純)
文藝春秋 2150円
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