本格始動したICT教育における課題と対策 教員・子どもが得られる効果とは

多様な子どもたちの可能性を引き出すために個別最適な学びを実現するには、もはやICTは欠かせないツールです。今後いっそう変化が加速する時代の中で、子どもたちに必要な資質・能力を育むために、本稿ではICT教育における課題と対策をテーマにしながら、ICT教育で得られる効果について解説します。
「GIGAスクール元年」とも呼ばれる2021年度のスタートに際し、萩生田光一文部科学大臣から「1人1台端末」の安全・安心な利活用に向けたメッセージ動画が配信されました。
また中央教育審議会からは、2020年代を通じて実現すべき「令和の日本型学校教育の姿」として、多様な子どもたちの可能性を引き出す個別最適な学び、協働的な学びの実現に向け、改めてICTの活用が必要不可欠であることが言及されました。
ICT教育環境の実現に当たっては、教育委員会などの自治体や学校、教員、保護者がそれぞれの立場で抱える課題に丁寧に向き合うことが必要です。
ICT教育の6つの課題
そんなICT教育を普及・発展させるための課題として、現時点で次の6つの課題があるといいます。
1.ビジョンや目的が明確でない
2.自治体間の格差、学校格差が生じる
3.教員の校務が増える
4.教員のITリテラシーが低い
5.子どもたちの安全性
6.安定したネットワーク環境を保てるか
まずはそれぞれの課題について、詳しく見ていきましょう。
1.ビジョンや目的が明確でない
とくに現場では、ICT教育に対して次のような疑問が生じることがあります。
・そもそも使い方がわからない、現場への導入手順がわからない
・ICTを活用した授業風景を想像できない
・授業のどの部分でICTを活用すればいいのかわからない
・そもそもICT教育がどのようなものかわからない
枠組みとしてのICT教育に対する啓発や注目は進んでいますが、具体的なガイドラインや段階的な導入方法に関する情報がありません。そのため、現場では何から始めたらよいかわからなく途方にくれてしまうケースもあります。
こうした疑問が目の前に現れることで、ICT教育のゴール・目的があいまいになってしまうことが第1の課題です。
単にICT機器を導入することがゴールではありません。機器や通信環境の導入は目的ではなく、あくまで手段であると認識し、「何のためにICT教育を導入するのか」「中長期的な視野でどのような変化が表れるか」といったイメージを描くことが大切です。
2.自治体間の格差、学校格差が生じる
2点目の課題は、自治体間の格差、学校格差が生じることです。
この背景には、ICT教育に積極的な自治体、学校とそうでないところに分かれることがあります。地域の人口減少などで、教育委員会や学校にITリテラシーのある関係者の数が少ないことも関係しています。
また、もし仮にITに詳しい指導主事や教員が1人いたとしても、その人に負担が集中してしまうケースもあります。これにより学校全体としてのICT教育の基盤づくりが進まず、属人化することで労務問題など別の課題にもつながります。
3.教員の校務が増える
2つ目の課題に関連して、教員の校務が増えることも課題の一つです。
ICT教育導入とは別に、現状、全国的に教員が校務の多さに悩まされています。例えば、ネットワークやOSの運用・管理・保守といった業務など、教員の視点ではさらに仕事が降りかかってくる、という見方もできなくはありません。
こうした負担が増えることで、教員が本来大切にしたい「子どもたちと向き合う時間」「授業への準備時間」がさらに減る一因にもなります。ただし、ICTという言葉のとおり、コミュニケーションのツールとしてうまく活用すれば、逆にそうした時間を増やせる可能性もあります。