子どもの「ポテンシャルを高める」大人の共通点 ビジャレアル佐伯夕利子の「教えない」指導哲学
「人がいちばん成長するのは、自分が成長したいときなんです。日本では『監督さんのために』って言う子もよく見ますが、それはやっぱり間違っていると思っています。そこに本当の意味でのアスリートの成長はありません。自分の成長のためというのは利己的とは違って、自分がよりよいアスリートになるということです。そして、それを求め続けていい、それが健全なスポーツ感覚だと徹底することが重要なんです。『失敗したら怒鳴られる』っておびえながらプレーしているアスリートが伸びるわけがありません。心地よい環境でみんなが成長したいと思える環境を大人たちが提供できれば、いくらでもいいアスリートは生まれてくる。そうすれば、間違いなく競技者人口も増えるし競技力も上がります」

2003年当時、スペインサッカー界では女性として初めてスペイン3部リーグ、プエルタ・ボニータの監督に就任。その後、複数のチームで指導者を務め、現在はビジャレアルの育成部で後進の指導に当たっている。日本プロサッカーリーグ常勤理事
そのように選手たちの成長を心から願う一方で、ユースチームでは夢が破れた後の話は避けられない。佐伯氏が相対するユースの選手たちは同年代の中のサッカーエリートであることは確かだが、その先でサッカーを職業にできる選手はほんの一握りだからだ。佐伯氏は、サッカーが好きということだけでは解決できない、人生の本質を選手たちには追求してほしいと願っている。
「私たちの世界では、よく『サッカーの向こうに新しい世界や人生が待っている』という話をするんです。若い選手ほど、サッカーがその子の世界のすべてを構成していることが多いからですが、彼らの長い人生から考えたらサッカーはほんの一部でしかない。幸せを感じられる濃度が高いから、彼らの中でサッカーがすべてになってしまうんですけども、そうじゃなくて『その先に広がる世界はもっと広くて、人生は豊かで幸せなものなんだよ、サッカーはその1つのツールにすぎず、あなたが幸せな人生を送るための通過点だよ』と大人たちが常々言ってあげないと、選手たちも道を誤りかねません」
これはあらゆることに頑張る子どもたちに共通していえることだろう。スポーツ大会、コンテスト、入試、資格試験……、全国優勝を懸けた試合でも、東京大学の入学試験でも、それは通過点にすぎない。
「試合に勝った、負けた、上のカテゴリーに昇格した、しない、のようなことがすべてになってしまうと『僕はダメな人間なんだ』と必要以上に苦しませ、不幸な子どもを生んでしまうだけ。大人たちがしっかりと人生や幸せについてのメッセージを伝えていかなくてはいけない」
子どもに対する接し方は、国が違っても、本質的に変わりがない。指導者とは子どもたちに学びの機会を創出し、幸せになるお手伝いをする人生のファシリテーターなのだろう。
(文:池田鉄平、写真:J.LEAGUE提供)
制作:東洋経済education × ICT編集チーム
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