子どもの「ポテンシャルを高める」大人の共通点 ビジャレアル佐伯夕利子の「教えない」指導哲学

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「私もそうでしたが、これまでの指導では一方的にインプットして、指示を出して、人を動かそうとしてきました。これだけでは、頑張らせることはできても、自分で考えて行動する主体性が育まれません。この指導法のおかしさに少しずつ社会が気づいていると思うんです。習慣化していることにこそ、あえて『?』マークをつけて疑ってみる。そうすれば、きっと多くの気づきが得られるはずです。日本の教育って批判されることもありますが、私にメッセージをくれたり、現場ですでに動いていたりします。こういう動きはスペインではなかなかありません。教員たちの意識が高いというのは、今後の日本にとってすごくプラスだと私は捉えています」

04-05シーズンのアトレティコ・マドリード女子時代。試合終了後、選手を慰労している

佐伯氏がスペインに渡り、20数年間の指導者人生の中で、改めて気づかされた日本人の強みもある。全体観や調和を重んじ、バランスを考えて、チームワークに取り組もうとする意識が自然と身に付いているということだ。これは、他国からも重要視され、日本人という人材が重宝されているという。

「おもてなしという言葉が取り上げられますけど、重要なのはその裏にある姿勢だと思います。例えば、まったくやりたくもない町内会の草むしりとかがあるじゃないですか。日本の人って、心の中では嫌だなーと思いながら結局一生懸命にやりますよね。嫌なことに向き合うときでも心の中で姿勢を正し、1つひとつ地道に取り組むということを、日常の中で教えられていて、それが決定的に他国との差になっていると思います」

日本人の強みを理解しながらも、ときに自己主張が控えめという弱点も指摘する。佐伯氏がスペインに渡り、指導者を始めたときにいちばんカルチャーショックを受けたのは、スペイン人の圧倒的なコミュニケーションの豊かさだった。

「日本では先生やコーチが語りかけても子どもたちが答えない場面ってありますよね。『〇〇くん』と指名してようやく答えられるという。そういうことが、スペインの子たちにはない。ちょっとでも質問するとワーッてみんな一斉に答えてくるんですよ。よく外国の方って"How are you?"って聞きますよね。昔、私は"Fine"で終わっちゃってたんです。でも"Fine"で会話が終わるのは、こっちの人にはありえない。『で、それから?』って。今、日本でも言われる「雑談力」ですが、その能力が日本の人は圧倒的に低い。人間の関係性って一見無駄に見える雑談のようなところから豊かになって育まれていく。無駄話をしてもらえる関係性をつくることからチームづくりは始まるんですよね。その感覚を私はスペインで貴重な学びとして得ました」

これは学校という組織の中にも当てはまることだろう。教員と子どもたちでも、あるいは教員と教員でも、いい関係性はさまざまなコミュニケーションの上に成り立つのだ。

成功至上主義は不幸な子どもを生み出す

佐伯氏がビジャレアルでコーチングのスキルアップに没頭している頃、日本のスポーツや教育現場ではハラスメントの問題が表面化する場面が増えていた。欧米ではありえない言動が、平気で容認されている現実がまだ日本にはある。アスリートや子どもたちのポテンシャルを高めていくアプローチは、圧力ではなく、モチベーションだということはスペインでは周知の事実だ。

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