玉川聖学院の探究「人間学」に見るICTの絶大効果 休みがちな生徒も「1人1台」で学びやすく

また、ICTの導入により「生徒の工夫や表現の幅が広がった」と、安積氏は言う。話すことが苦手な生徒が、テレビ番組をパロディー化した動画を制作して発表を行うなど、教員の想像を超えた使い方をしてくることもあって驚くことが多々あるそうだ。
一方で、人間学の授業では、手書きによるノート作成を大切にする。授業記録だけでなく生徒自身が感じたことも書き込み、それに対して教員がコメントを返す形式にしているが、なぜここはアナログにこだわるのか。

「当初はデータで残すことも考えましたが、クラウドサービスは10年前にはなかった技術。つまり10年後に新たな技術に取って代わられているかもしれません。そのような中でもノートは手元に残りますし、これを何十年後にも読み返すことは生徒の人生に必ず意味を与えると信じており、あえて紙にしたのです」
発言が苦手な生徒のことを考え、SNSのように意見を書き込めるアプリを使ってディスカッションを試みたものの、結局やめてしまったこともある。

玉川聖学院 高等部学年主任、社会科。総合科人間学には2004年から携わり、09年より高1人間学チーフ、19年より高等部総合科主任
「やはりリアルの議論のほうが相手の発信をくみ取れていて、改めて大勢の前で話すことや誰かの言葉をみんなで聞く体験は重要だと思いました。ICTを積極的に活用することは大切ですが、目的は生徒が育つこと。うまく使い分けることが重要だと思います」
同学院では、人間学の授業以外でも伝達発信力を磨く機会がある。高等部では各自が3年間の体験をポートフォリオとしてまとめているのだ。これもクラウド上で教員と共有できるようになり、進路相談の際に対策が立てやすくなった。同学院は総合型選抜や学校推薦型選抜での大学合格者が多いが、その訳はこうした日々の探究学習や自分史の作成などにあるのかもしれない。
ICT活用でインクルーシブ教育を強化
同学院全体のICT化の動きに話を戻そう。デジタル機器の導入が広がる中、2014年にICT活用をさらに推進するプロジェクトが立ち上がった。15年にはWi-Fi環境整備のプロジェクトも発足し、高1でiPadの使用をスタート、3年かけて高等部全員の「1人1台」を実現した。
ICT活用に本腰を入れた目的は、アクティブラーニングの強化だけではなく、多様な生徒に対応するためのインクルーシブな枠組みづくりにもあったという。同学院は、以前から教科担当者・担任・養護教諭・常駐のカウンセラーが連携を取り合い、教室参加が難しい生徒の学びのサポートをしてきた。

ICT化が進んでからは、さらに情報共有が担保され、「学びの平等性」も確保しやすくなったという。例えば、これまで欠席した生徒には、各教科担当者からプリントを集めて渡していたが、生徒が直接クラウドを通じて必要な資料や情報を取り出せるようになった。