
実際、東村さんの夫の部活動による負担は大きなものだった。
「朝は5時半に起床し、6時半には家を出て7時過ぎには働きはじめています。部活動は週3回あって、帰宅するのは22時から23時くらい。週末もほとんど部活があります。ひどいときは3カ月以上、100日連続出勤ということもありました」
雨が降れば土日の試合は中止になるため、毎週降雨を祈り続けていると東村さんは自嘲気味に笑う。夫が望んで顧問を務めているならまだしも、学生時代は文化部一辺倒で、顧問になってからそのスポーツを学んだという。「子どもたちのために」公認の審判資格まで取得したにもかかわらず、エキサイトした保護者から「審判どこ見てんだ、素人か!」となじられたり、保護者同士のいさかいに巻き込まれていわれのない非難を受けたりしているのがかわいそうだと話す。
部活動のない日も、決して暇というわけではない。東村さん自身の出勤時間も夫とほぼ同じ朝7時だが、学校を退勤するのは19時くらいと多忙だ。残業時間が1カ月100時間を超えることもあり、平日は本当に時間がないという。「ただでさえ忙しい」とは教員を表現するときの定番の枕詞だが、大げさな話ではないのだ。ちなみに、厚生労働省が定めた残業時間の過労死ラインは、1カ月当たり80時間である。
顧問を断ると“爪弾き”になる現実
厳密に言えば、部活動の顧問はボランティアではない。文部科学省は、2時間以上4時間未満の場合1800円、土日4時間以上で3600円としている。この金額をどう捉えるかは人によって違うだろうが、東村さんは「そんなお金はいらないからすぐにでも辞めてほしい」と訴える。
「結婚してから、夫はほとんど家におらず、いるときは疲れてぐったりしているだけ。お酒が好きなのに、最近は飲むとしてもビール1杯のみです。翌日が休み、ということがないからです。新婚のときも、結婚式を挙げてからその年の年末まで9カ月間、一切デートをしませんでした。年末にレストランで食事して『あれ、こんなちゃんと外食したのはいつだったかな』と振り返ったら結婚式以来だったんです。無理すればデートの時間ぐらいは確保できますけど、夫は十分に睡眠も取れない日が続いているわけですから、ゆっくりさせてあげたいですよね」
こんな心身ともに疲弊してまで、望まない部活の顧問をなぜ引き受けるのか。そう問うと、東村さんはこう打ち明けた。

「私自身は、顧問を打診されても全て断ってきました。でも、それが可能なのは女性教員だからです。男性教員の場合、顧問の打診を断るのは相当の勇気と、居場所を失う覚悟が必要です。以前、同僚の男性教員が断ったのですが、そのことが“ニュース”となってすぐさま内外まで知れ渡りました。隣の学校の先生から『あの人、断ったらしいね』と連絡が来ましたし、異動すれば『顧問を断ったのが来るぞ』という噂話が起こります」