台湾の超天才「唐鳳」が語るデジタル教育の本懐 39歳デジタル大臣「自ら動機を探すことが重要」

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――唐鳳さんの個人的な体験を中心にお伺いしたいのですが、唐さんの学歴は中学卒業。しかも、中学生の後半は学校に通っていませんでした。そういった中で、印象的だった教育、学習について話していただけないでしょうか。

唐鳳:私は中学2年生の時にサイエンスフェアに参加し、AI(人工知能)やAIの自然言語処理に関する最先端技術をテーマに研究していました。その過程で多くの研究者と出会いましたが、同時に、学校の授業で学べる内容は最先端の知識よりも10年ほど遅れていることに気づいてしまったのです。

そこで、当時の校長先生を説得しました。校長先生としては、「学校に行きたくない」という私の要望を受け入れれば、罰金が科せられてしまいます。それでも校長先生はすばらしい方で、「明日から学校に来なくてよい。後は私が何とかするから」と言ってくれました。時効となったため、今ではこのような話を皆さんと共有できるようになったのですが……(笑)。

当時のような状況下にあった公務員でさえ、いわば市民的不服従ということができた。これは教育における1つのイノベーションだと思います。それを私は目の当たりにしました。現在、デジタル大臣という立場から、公務員の中でもイノベーションを起こせる力があるかどうか。これについては、私は誰よりも自信を持っています。

――自分の強い関心や興味を中心に、いろいろなことを自分から進んで勉強していくことがいちばん大事、ということでしょうか。

唐鳳:そうです。2019年に台湾の「新学習指導要領」(十二年国民基本教育課程綱要総綱)に基づくカリキュラムの開発を議論する委員会に私も参加していましたが、われわれは学生が自発的に、自ら学習の動機を探すことが、今後は最も重要だと考えています。

というのも、一人ひとりが生涯学習の習慣を維持する必要があります。そして、その動機が自分の心の中から発せられたものであれば、学習に対する情熱を一生涯、持ち続けることができるからです。そのような動機が、単に他人との比較やよそから植え付けられたものであったとすれば、学校教育から離れてしまった途端、「学習しよう」という動機が弱くなってしまうでしょう。生涯学習はやはり、最も大事だと考えます。

正解がないからこそ、生まれる創造性

――親や教師から、子どもたちに自学できるような情熱を与える具体的な方法はありますか。

唐鳳:1つのよい目標が提示されています。国連の「SDGs」(2030年、持続可能な開発目標)を参考にしてみたらいかがでしょうか。なぜなら、SDGsが持つ特色は、われわれの世代が経済や環境、社会的活動をしていくうえで、次の世代あるいはこれから7世代ぐらい先に至るまでによりよいものを築いていくということを基本的な考え方として構成されているからです。

また、気候変動や貧富格差の拡大、オートメーション化が進む未来における問題は、私たちの世代よりも、彼らの世代のほうが身近で切迫した問題です。だからこそ、今の子どもたちがSDGsに関する議題を耳にすれば、彼らの世代のほうが今後より大きな影響を受けるわけですから、きっとたくさんの時間をかけて理解し、学習しようとするはずです。

――SDGsをいかに達成していくか。目標はあっても、「こうすべし」という正解もまたないのではないでしょうか。不確実性が増す世界で、正解のない問題をどう解決していくのか、そのような知力、知性も必要とされています。それらをどのように獲得すべきだと思われますか。

唐鳳:確かにSDGsは目標だけであって、それらの目標をどのように達成するかは明確に提示されていません。とはいえ、だからこそ意味があるともいえます。なぜなら解決しようとする過程においてこそ、イノベーションや発展が存在する余地が出てくるからです。

目標はこう達成すべし、と指定されていたら、それはもはや目標ではありませんよね。決まった台本どおりに進めればよいだけです。小さい子どもを見ていてもそうですね。ルールが厳密に決められているボードゲームには興味がなく、砂や粘土のように「こう使う」と決められていないもののほうが最大限の創造力を発揮できます。SDGsもこれと同じようなことです。

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