台湾の超天才「唐鳳」が語るデジタル教育の本懐 39歳デジタル大臣「自ら動機を探すことが重要」

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このインタビューで、身長が180cmある私はVR内で3Dスキャンを受け、自分が小学生と同じ身長になるようなキャラクターを作りました。こうすることで、子どもたちが大人を見上げて話す必要がなく、同じ目線で、またより身近な空間でインタビューができたわけです。これはすべての子どもたちに親近感を与えるためになされた工夫ですが、あらかじめ録画されているビデオを見るよりは、確かに距離感はぐっと子どもたちと近づくことになります。

デジタルが人の距離を縮め、関心と信頼を高める

――日本では、新型コロナによる休校中の授業を補うために、大量のプリントを渡しただけという学校も少なくありませんでした。オンライン授業が行われたのも、ごく一部の学校だけで、日本の多くの学校はプリントで代替したところが多かったようです。こういう学校の現状で、デジタル化、オンライン化を切り開くことはできるのでしょうか。

唐鳳:私が中学3年生の頃、不思議に思っていたことがあります。インターネット上ではなぜ、そこまで時間をかけずにお互いを信用して一緒に行動を起こすことができるのか。一方で、実際の対面関係ではなぜ、お互いを信用するのに時間がかかり、互いを理解してからでないと一緒に何かをすることができないのか。それを理解したかったのです。

また、メディアでもそうだと思いますが、何かを出版する際に、未完成なまま発行するということはありませんよね。必ず取材・編集を経た後に出版されます。しかし、インターネット百科事典である「Wikipedia」では、まず誰かが執筆した後に、ほかの誰かが誤字脱字はもちろん、内容の信憑性などについて修正、かつ意見を述べながら改編されていきます。なぜリアルとネットでは、このような違いがあるのか。それが中学3年生当時の私の研究テーマだったのです。

そう考えているうちに、ネット上にはジャーナル(学術誌)での査読が完了していない多くの研究者の論文(プレプリント)が「arXiv(アーカイブ)」(arxiv.org)というサイトに、その研究内容とともに掲載されていることに気づきました。ネットを通じて世界の研究者が、今現在どのようなテーマを研究しているのかを理解し、その中から自分が興味のあるものを見つけることができるのです。

化学分野でも「ChemRxiv」(chemrxiv.org)というサイトがあります。例えば化学に関心のある中学生であれば、アルファベット順に農業や食品に関連する化学、あるいは生物、医学に関連する化学、工業面で化学がどのように応用されているのかを調べることもできますね。さらには化学によるエネルギーやCO2削減の可能性、気候変動への対策……などいろいろな分野に関することが一目瞭然なわけです。

興味のあることを探す中で、さらなる興味を持ったら、今度はその専門の研究者にメールを書いてみるとよいでしょう。研究者というのは、自分の研究分野に関する質問を歓迎する人たちです。また、ネット上でやり取りしている限り、質問をしているのは中学生ではなくて、同じ研究者だろうと思うこともあるでしょう。となれば、「一緒に研究を進めよう」ということにまで発展する可能性も出てくるのではないでしょうか。

好奇心が「共通善(Common Good)」となりイノベーションを生む

――そう聞くと、唐鳳さんは教育の分野でも社会全般においても、興味や関心を実行に移す際には、まずネットやIT技術を利用してやってみる。やってみた後に、ほかの人からの意見や修正を広く取り入れながら発展させていく。これこそイノベーションの手法だとお考えなのでしょうか。

唐鳳(とう・ほう、オードリー・タン)
1981年台湾・台北市生まれ。幼少からコンピューターに興味を示し、12歳からプログラミング言語を勉強。プログラマーとして有名になる。14歳で中学を中退。15歳で起業。19歳で米シリコンバレーでも起業。2016年からデジタル大臣として、台湾史上最年少の若さで入閣。現職。

唐鳳:確かにそうです。私にとってイノベーションとは、つねに自身の問題や好奇心を解決するところから始まり、同じ使命感や好奇心を持った仲間を集めて「共通善(Common Good)」を達成すること。社会分野、経済分野、環境分野など、どの分野でもイノベーションを起こすことは同じで、コミュニティーとの連携が大切だと思います。ほかには、おいしいものを食べて、よい音楽を聴く(笑)。これもイノベーションのためには大事です。

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