五輪延期、世論読み誤った日本とIOCの右往左往 舞台裏ではいったい何が起こっていたのか

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2月14日、中国における感染者の増加と緊急時の対応策について記者から聞かれたIOCのコーツ調整委員長は、懸念を打ち消すかのように質問をはぐらかした。中国は「(感染発生の)1日目」からアスリートをモニターできている。選手の多くは東京大会に向け国外で準備しており、訪日後に隔離の必要はない。コーツ氏はそう語った。

それから2週間後、安倍首相は全国の学校休校という異例の措置を打ち出したが、組織委の森会長は強気の姿勢を変えなかった。

「神様じゃないんだから、そんなこと分からない」。3月4日の記者会見で、五輪開催までに感染が終息しなかった場合の対応を聞かれた森会長は、いつになく無愛想だった。その前々週、森氏は「私はマスクをしないで最後まで頑張ろうと思っている」などと発言していた。

しかしこうした要人発言の裏で、関係者によると、日本の政府・中央銀行の当局者は3月初旬、今年の経済見通しの素案をまとめるに当たり、東京五輪の計画変更リスクをすでに視野に入れていた。

30億ドルという史上最高額のスポンサー料を支払った日本企業も、不安を募らせていた。各社はすでに主催者側と定期的に会合を開き、変化する状況について議論はしていたが、メディアなどで主催者側の主要幹部が個人の意見をたびたび発言していたため、混乱していた。

首相の発言に「がっくり」

企業関係者によると、五輪が中止、あるいは延期された場合に支払ったスポンサー料がどうなるのか、何ら確証を得ることができないでいたという。

開催延期の可能性が濃厚になる中、ある主要スポンサー企業の関係者は「すでに五輪関連のキャンペーンや大会前の節目のイベントに結構な額を費やしている。そのお金は戻ってこない」と嘆いた。そして、バッハ会長に延期を提案したと語った安倍首相の発表には「がっくりした」 と語った。

別の主要スポンサー企業の社員は、延期によって東京大会がどう変わるのか、まだ何も情報がない、と不安を隠さない。まるで「ブラックボックス」の中で延期が決められたようだ、と話すスポンサー関係者もいる。

大会組織委員会の広報はロイターの取材に対し、秘密保持契約上、各スポンサーとの契約内容ややり取りは開示できないとコメントした。大会延期についてあらゆる側面から見直しており、できるかぎり速やかに情報を発表するとした。

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