ニューヨーク「不動産仲介料廃止」のデカい衝撃 年間賃料の15%を事実上ゼロにする決定

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不動産業者に言わせれば、こんなルールを設けても多くの貸主は手数料を家賃に転嫁するだろうから、月々の家賃が高くなるだけだ。

「この(新ルールの)本来の目的は何だろう」と言うのは、不動産会社エレグランのセールス責任者ジャレド・アンティンだ。「もしそれが入居者の費用負担を最小限にすることだとしても、実際には支払いのタイミングが変わったにすぎない。前払いか、月賦かということだ」

ニューヨーク州では第二次世界大戦のころに生まれた家賃を統制下に置く制度が今も残っており、家賃の値上げ率の上限が州法で定められている。ちなみにニューヨーク市には、統制対象となっているアパートが約100万戸あるほか、統制対象外の、市場相場で賃料を決められるアパートの数も90万戸を超える。

「不動産業者は長い間、甘い汁を吸ってきた」

借りる側の権利保護を訴える人々は、貸主優位の不平等な不動産市場を変える一助になるとして手数料の撤廃を歓迎する。

「これらの措置は入居者保護として重要なもので、そろそろ導入されてもいいころだった」と言うのは、借りる側の権利保護を訴える団体テナンツPACの会計担当者、マイケル・マッキーだ。「不動産業者はこれまで長い間、甘い汁を吸ってきた。そろそろ規制を強化するときだ」

ニューヨーク市に来たばかりの人にとって、インターネットを使って自力でアパートを見つけた場合でも仲介手数料を払わなければならないことは以前から疑問や不満の種だった。だがアメリカ国内の大半の都市と異なり、ニューヨークの貸主は借り手と直接交渉したり自力で借り手を探したりするのを嫌うケースが多い。その代わり、彼らは不動産業者を雇う。

実は不動産業界の関係者たちは、新しい賃貸住宅関連法がこうした形で解釈されるのを密かに恐れていた。この新法は10年ぶりに州議会の過半数を獲得して強気になった民主党議員らが昨年、通過させたものだ。

新法は入居者の保護と規制強化を目的としており、アパートへの入居を申し込む際に20ドル以上の手数料を取ることを禁じている。これには身元調査や信用調査の手数料も含まれる。また、敷金の上限は賃料の1カ月分と定められたことで、借りる側が入居時に払わなければならない金額はさらに減った。

だが条文からは、20ドルの上限に仲介手数料も含まれるのか、仲介手数料を入居者に支払わせるという慣習をなくすことが狙いなのかはっきりしなかった。ちなみに1カ月の家賃が2500ドルのアパートの場合、仲介手数料は最高で4500ドルになる。

だが今回の運用指針で、20ドルの上限は仲介手数料にも適用されることがはっきりした。つまり事実上の禁止だ。

今後、仲介手数料は貸主が負担することになる。それが嫌なら物件情報を公開したり宣伝したり契約を結ぶのも自力でやらなければならない。今回の指針により、ニューヨークでは今後、借りる側が不動産業者の力を借りずに自力でアパートを探すことを選んだ場合には手数料は事実上、不要になるかもしれない。

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