賃貸住居で増える「認知症トラブル」深刻な実態 「高齢者を住ませない」では問題は解決しない

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受講した人からは、「ヘルパーの訪問を受けている入居者は、健康などに問題があるのではと不安を抱いていましたが、逆に福祉とつながっており、そのほうが何かあった場合も専門家が見守っているので安心だとわかった」「過去のトラブルのいくつかは認知症のせいだったのかもしれないと思いあたることが。今後、同じようなことがあったら違う対処を考えたい」などの声があり、好評だ。

特に地域包括支援センターが、具体的な相談から何を相談すればいいのかまで幅広く聞ける場所であると知ることで安心する人が多かった、と同講座の講師を勤める木村誠氏は言う。得体の知れない、変な人の行動の理由がなんとなくでもわかり、相談先がわかることで解決不能な問題が、解決可能に見えてくるのだろう。

不動産会社や管理会社は「人」を管理できない

だが、不動産会社、管理会社が認知症や、相談窓口を理解したからといって問題が解決するわけではない。賃貸、分譲ともに不動産の管理業務には、「人の管理」は含まれていないからだ。賃貸住宅で建物所有者、入居者双方と契約しているような場合にはある程度、相談に乗ってくれるだろうが、分譲の場合はまず無理。

管理人全員が講座を受けていて、住民の生活をサポートすると謳っている管理会社なら表面的には聞いてくれるかもしれないが、実際に何かをしてくれると思うのは間違いだ。そんな契約にはなっていない。住んでいる人の命や、体調は管理会社の管理するところではないのだ。

分譲マンションでも、認知症に起因する同様のトラブルは多発するようになっており、退去を求められない分、自己所有物件での解決は難しい。

オートロックの使い方がわからなくなったがゆえの徘徊や行方不明に加えて、管理組合の理事や理事長が認知症となり、管理組合が混乱して大規模修繕が進まないなどのトラブルもある。資産価値下落を恐れて行政に支援を求めなかったり、個人情報を盾に一部の人以外には状況を教えないといったことから知らないで購入した人との間で揉めることもある。

「本当は互いに助け合う仕組みを作るために管理組合こそ講座を受けるべきです。管理会社は専門家ではありませんから、講座を受講したことをアピールするのではなく、どこに相談したらいいかを伝えるなどで管理組合をサポートするのが大事ではないでしょうか」(分譲マンションの管理を行うリビングコミュニティマンション管理部・間部憲重氏)

ただ、助け合うといっても高齢化が進めば、マンション内だけでの助け合いにも無理が生ずる。100戸のうちの1人なら支え合えるにしても、それが5人になり、10人になるとしたら難しい。やはり、早々に行政に相談し、福祉へとつなげていくのが現実的だろう。

賃貸でも民間の空き家を利用するのはいいが、そこでのトラブルも民間で解決しろというのでは、この先も高齢者や住宅困窮者が入居できる住宅が増えるはずはない。孤独死については死後の価値下落に関わるとして、国交省が事故物件の定義を定めるべく、検討を始めているというが、認知症については今のところ手つかずだ。

2025年には団塊の世代の約800万人が75歳を越し、同時多発的に認知症が急増するという予測がある。幸い、それまでにはまだ時間がある。認知症居住者が抱えるリスクは個別のマンションや賃貸オーナーや、不動産会社の問題にとどまるものではない。法や制度の整備、福祉と住宅の業界を越えた連携など何かしらの対策を考えていく必要があろう。

中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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