「ウザい!」、氷河期世代に見捨てられた労働組合

それでも労組が必要な理由を探る「トラジャ」

言い方を変えれば、分割民営化の混沌のなかで、動労は国鉄内の組合同士による勝ち抜き戦を勝ち上がるようにして、「JR東労組」となって会社に君臨していくのだ。

牧久(まき ひさし)による松崎の評伝『暴君』(小学館・2019年)に、かつての異様な労使関係を表す、JR東の初代社長・住田正二の言葉が引用されている。「近代的な労使関係は、労使対等でなければならない」「労働組合のチェック機能を軽視することは誤りである」。

労使協調どころか、労使対等である。経営側からそれを言い、さらには労組を経営に対するチェック機能として歓迎する。みごとな屈服ぶりである。

それにしても会社がここまで労組を恐れるのはなぜか。かつて、松崎の側近の1人とされる人物は西岡の取材に対して、こう話している。「防護無線を1回、発報してしまえばいい。それだけで山手線はすべて止まりますから」「そんな活動家が5人、順番に防護無線を発報していけば、その日の山手線のダイヤはズタズタになります」

かくして労組が会社を服従させるのであった。

「ノンフィクション」の鉄則

「週刊誌の鉄則は『誰もが知ってる人の、誰にも知られてない話を書け』」。西岡はこうツイートしたことがある。

西岡が2006年に『週刊現代』で連載した「テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実」はまさにそれであったろう。これは同時に「誰もが知って」いながら、誰にも書けなくなっていた話でもあった。

事の起こりは1994年6月、『週刊文春』が「JR東日本に巣くう妖怪」を掲載する。するとJR東日本管内のキヨスクが同誌の販売拒否に出る。当時の発行部数は90万部、そのうち11万部をキヨスクでの販売に頼っていたため、文藝春秋にとっては大打撃であった。

そうした状態が1カ月半ほど続き、その後に誌面で「お詫び」するに至る。それだけではない。同記事の執筆者・小林峻一の自宅に何者かが侵入し、JR東関連の資料や名刺などが盗み出される事件まで起きる。かくしてJR東日本の労組問題はタブーになる。

そのタブーに挑んだのが西岡である。西岡は神戸新聞の記者から雑誌『噂の真相』へと転職し、以降『週刊文春』『週刊現代』で専属記者をつとめるのだが、文春を辞めて現代に移ったのはこれを書くためであった(『マングローブ』の「プロローグ」に詳しく書かれている)。

ここで西岡は、JR東日本内における革マルと松崎による支配の実態を書いただけではなかった。登記簿謄本をあらい、松崎のファミリー企業をあぶり出すことで、その公私混同ぶりを白日の下にさらすのであった。

登記簿謄本、ファミリー企業……それは立花隆が月刊『文藝春秋』に書いた「田中角栄研究」と重なりもする。新聞やテレビの記者たちは立花に対して「そんなことは昔から知っていた」とうそぶいた。しかし誰もやらないことであった。

新聞・テレビなど、よそがやらないことをやる。これが雑誌ジャーナリズムであり、西岡の連載記事はその調査報道の本流であったといえる。

次ページ訴訟を起こされても動じなかった『週刊現代』
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