旅する力 深夜特急ノート 沢木耕太郎著 ~旅は在るものではなく作るもの

旅する力 深夜特急ノート 沢木耕太郎著 ~旅は在るものではなく作るもの

評者 映画監督 仲倉重郎

 旅はどこかに在るものではなく、作るものだと著者はいう。本書は、旅の名著といわれる『深夜特急』がどのようにして生まれたか、そのいきさつを明かした書である。

著者は26歳の時、インドのデリーからロンドンまで、ユーラシア大陸を旅した。著者が課した旅のルールはただひとつ、乗合バスで行くことである。ほぼそれを守り切り、約2万キロ、地球の半周分の距離を乗った。

バスの旅は「風景が近い」。鉄道と違って街の真ん中を通るからだ。「ぼんやり目をやった風景の中に、不意に私たちの内部の風景が見えてくることがある」。それが自身をみる「旅の窓」であるという。

旅から帰って3年後、『ミッドナイト・エクスプレス』という映画を観た。アメリカ人の若者がトルコを旅し、帰りにハシシを密輸しようとして捕まるが、4年後に脱獄する。「ミッドナイト・エクスプレスに乗る」というのは脱獄の隠語である。ひとつ間違えば著者も同じ目にあったかもしれないと痛感した。それが書名の由来である。

日が経つにつれて旅はどんどん遠ざかっていくが、旅について書きたいという思いは抱き続けていた。10年後、その機会が巡ってくる。1年間の旅を1年間かけて新聞に連載することになった。ずいぶん時が経っているのに驚くほど克明で詳細である。発酵するのにそれだけの時間が必要だったのだろう。

日本の外に出るのは26歳が「適齢期」らしい。経験と未経験がバランスされている年だからだという。評者が初めて海外に行ったのも26歳だった。それは、旅ではなくロケだったし1カ月という短期だったが、その体験は長い間、「外国」についての感覚の基準だった。

20代に、外国に出てみるのは必要なのかもしれない。

さわき・こうたろう
1947年生まれ。横浜国立大学経済学部卒業。『若き実力者たち』『敗れざる者たち』等を発表した後、『テロルの決算』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『一瞬の夏』(新田次郎文学賞)、『凍』(講談社ノンフィクション賞)など常に方法論を模索しつつノンフィクションに新しい地平を開く。

新潮社 1680円 289ページ

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