計画運休、JR東の情報発信量は西の3割だった 鉄道各社「決断の温度差」が浮き彫りに

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同じく関西の南海電鉄は、線路などへの倒木や飛来物の撤去のため通常では使わない保守車両を巡回させるなどして点検時間の短縮を図った。また、計画運休の実施時刻から順次運行を取りやめるのではなく、運休予定時間の3時間前から順次運行を取りやめていた。そのため、実施時刻には列車が車庫に入っている状態を作り出していた。運休が早ければ、運転再開の準備時間をそれだけ確保できることになる。

10月10日、国土交通省で開催された検証会議。中央はJR東日本の川野邉修副社長(筆者撮影)

主な関西の鉄道事業者が計画運休に備えられたのは、経験値の差だけではない。鉄道に限らず旅客輸送であれば、風や雨の状況に応じた運行基準を持っている。首都圏の鉄道事業者もそれは同じだ。しかし、それは単純に運行すべきか運休すべきかの基準が示されているだけ。

計画運休とは「事前にアナウンスして運転を停止することだ」と、国土交通省の担当者は言う。しかし、運休をどのように定義し、何を目的として行うものなのか。運休の対象とすべき台風はどの規模か。事前告知をどう行うか。代替輸送はどうするか。どのように運転再開するのか。それらの判断が社内で統一されていないまま、とりあえず「計画運休」という言葉だけが走り出したのが今回の状況に見える。

利用者への情報提供も“西高東低”

JR東日本の情報提供が最も顕著なので、例に挙げてみる。

10月1日の運転再開時に、同社在来線で駅の入場制限を行ったのは32駅あった。そのうち同社がホームページに掲載したのは11駅だけ。残りの21駅は利用者が駅に行かなければ状況がわからなかった。

「駅から個別に情報をとって反映が可能なものだけをホームページで掲載した」と同社の広報担当者は、掲載駅数が少ない理由について説明するが、これでは何も知らない利用者が駅に押し寄せるのも無理はない。同社自身が情報を把握する体制を整えることが急務だ。

さらに、情報発信体制にも問題がある。在来線の計画運休の告知はわずか3回。運休当日の30日に運休の発表を2回、翌10月1日の朝4時に始発から再開できないという発表を1回、報道各社に通知したのみだった。ホームページやアプリ上でもっとはっきりと告知してもよかったのではないか。

実際、9月30日の東京駅に記者が滞在した時にも、駅の放送は頻繁に流れたが、柱のデジタルサイネージは、いつもどおりの広告を表示したままだった。また、過去の災害による鉄道運休時と比較すると、ホワイトボードが目立つ場所に掲示されていないように感じられた。

ちなみに、JR西日本は計画運休関連の情報提供を28日から始めている。1日まで4日間で多言語を含むツイッターを活用。プレスリリースの発信回数もJR東日本の3回に対し、JR西日本は9回。実にJR東日本の3倍に達した。

適切な情報提供のあり方は、計画運休だけではなく地震などの災害時にも役立つ。駅に行くべきか、行かずに待つべきか。その判断ができる情報を、最大限の手段を使って伝えようと努力すること。それも鉄道事業者の役割だ。計画運休への理解は、その中で育つ。

中島 みなみ 記者

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なかじま みなみ / Minami Nakajima

1963年生まれ。愛知県出身。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者を経て独立。行政からみた規制や交通問題を中心に執筆。著書に『実録 衝撃DVD!交通事故の瞬間―生死をわける“一瞬”』など。

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