異業種からの参入続々だが…外国為替証拠金取引(FX)業界に迫る大量淘汰の足音
世界的な金融危機を反映して乱高下する為替相場。これを受けて“活況”を呈しているのが外国為替証拠金取引(FX)だ。しかし売買高急増の裏で、FX業界には淘汰・再編の荒波が迫りつつある。
「10月の当社のFX取引金額は、月間ベースで過去最高」。カブドットコム証券の雨宮猛常務執行役は打ち明ける。急激な円高ドル安進行を逆手に取り、相場反転狙いで一獲千金をもくろむ「逆張り」の取引が増加。為替差損が一定額以上に膨らんだ場合、FX会社が投資家の代わりに強制手仕舞い(反対売買)して損失を確定する「自動ロスカット」が相次いだのも原因とみられる。
FXは、個人向けの外貨売買金融商品(差金決済)。証拠金に対し取引額の倍率「レバレッジ」を高めれば、少ない元手でも多額の利益を得られる「ハイリスク・ハイリターン」型の金融商品だ。株と違い、為替の値動きを見て投資するわかりやすさも人気を呼び、急成長を遂げた。
2008年3月期の口座数は123万件と前年比約92%増。09年3月期には179万口座に達する見込みだ(矢野経済研究所調べ)。日銀の「本邦の外為証拠金取引の最近の動向」によると、取引量は08年1~3月期に230兆円と2年前の4・6倍に膨らんだ。市場拡大に伴い、FX会社の競争も激化している。消耗戦で体力をすり減らし、経営に行き詰まるケースも少なくない。
10月下旬、トレイダーズFXが12月1日で廃業すると発表した。「業界最高水準」のサービスを標榜し、7月に新規参入してからわずか3カ月後のことだった。
同社は、大証ヘラクレス上場のトレイダーズホールディングスの全額出資子会社。トレイダーズHDはグループの証券子会社を通じてFXを展開しており、それとは別に新サービスを手掛ける別働隊として、トレイダーズFXを立ち上げた。
トレイダーズFXは、顧客の取引コストを徹底的に下げる戦略を採った。インターネット取引の手数料は“業界標準”に倣って無料。レバレッジは最高400倍に設定した。買値と売値の価格差である「スプレッド」も最低でゼロにした。スプレッドはFX会社の実質的な手数料に相当。つまり取引手数料を無料化し、スプレッドもゼロに設定すれば「本来は絶対儲からない」(業界関係者)。無理をしても競合から顧客を奪う作戦だった。
だが、すぐにつまずいた。FX会社は通常、顧客から受けた注文を「インターバンク」市場で執行する。「カバー取引」と呼ばれる売買だ。たとえば、ドル売り注文に応じたFX会社はドルの買い持ちになるため、ドル安になると為替差損を被る。この場合、「カバー先」と呼ばれる金融機関へドル売り注文を出せば、ドル安のヘッジができる。
トレイダーズFXはコスト度外視で顧客取り込みに走った結果、「予想以上の注文が殺到したが、カバー先の金融機関との取引がうまくいかず多額の為替差損を抱えた」(同社関係者)。大量の顧客注文の処理に手間取り、価格変動リスクを防ぎきれなかったと推測される。