東急の渋谷再開発、成否のカギは「回遊性」だ 東横線跡の新施設は「訪れたい場所」になるか

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渋谷キャストで6月からトライアルが開始された(本格開始は8月から)「CAMPING OFFICE」サービス(筆者撮影)

確かに、それぞれのビルに入るものをよく見れば個性はある。すでに開業している渋谷キャストでは6月からアウトドアメーカー、スノーピークの子会社と共同して「CAMPING OFFICE」サービスを開始した。5月に行われたプレイベントでは広場にテントが出現し、その中で会議を行うという非常にユニークな空間ができていた。

実際にテントでディスカッションを体験した参加者からも「ゆるい雰囲気で話ができる」「アイデア出しやその展開がしやすい」と好評価だった。クリエーティビティを刺激したり、イノベーションを生み出したりするにはよい取り組みのようだ。「クリエイティブ」を標榜するほかの施設づくりにもよいヒントになるのではないだろうか。

渋谷川沿いの回遊性を確立できるか

今後ポイントとなるのは、渋谷キャストでできている「クリエーティブな発想ができる」という仕組みを「渋谷ストリーム」にうまく入れ込んでいけるか、そして「渋谷ブリッジ」も含めた渋谷川に沿った導線を成功させることができるかだろう。

渋谷ストリームおよび渋谷駅改修工事後の渋谷駅南側動線のイメージ図(図:東京急行電鉄株式会社提供)

渋谷ストリームは、ともすれば「駅直結のホテル併設オフィスビルの前にプロモーションイベントを展開するイベントスペースがあるだけ」というビルになりかねない。さらに渋谷ブリッジはその遠さと規模感ゆえに相当魅力的な空間にしなくては「わざわざ訪れたい」と思えるようにすることは難しいのではないかと思う。そして先述のとおり、この南北のルートがうまく回遊性のあるルートに仕上がらなければ「Greater SHIBUYA」は絵に描いた餅になりかねない。

2012年の渋谷ヒカリエ開業から始まった渋谷駅周辺再開発は、いよいよビルの開業ラッシュを迎える。今回取り上げた渋谷ストリームや渋谷ブリッジが今年秋に開業するのに続き、渋谷スクランブルスクエアの東棟は2019年度、渋谷東急プラザ跡の「道玄坂一丁目駅前地区」は2019年秋に開業する。その後は2027年に、渋谷スクランブルスクエア中央棟・西棟が現在の東急百貨店東横店の場所に新たな歩行者デッキとともにお目見え予定だ。

【6月28日20時30分追記】記事初出時、「スクランブルスクエア」としていたのは「渋谷スクランブルスクエア」の誤りでしたので訂正いたします。

これから渋谷は、大規模複合施設の開業ラッシュとなる。それによって渋谷が東急の思い描くような、訪れたい・広がりのあるまちとして出来上がってくるのか。そして、渋谷の文化や雰囲気をうまく引き継ぎ広げていけるか。そこに東急の目指す「世界のSHIBUYA」に変わっていけるのかどうかのポイントがある。「Greater SHIBUYA」の結果は、これから徐々に見えてくることとなる。

鳴海 侑 まち探訪家

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なるみ ゆう / Yu Narumi

1990年、神奈川県生まれ。大学卒業後は交通事業者やコンサルタントの勤務等を経て現職。「特徴のないまちはない」をモットーに、全国各地の「まち」を巡る。これまで全国650以上の市町村を訪問済み。「まち」をキーワードに、ライティングをはじめとしたさまざまな活動を行っている。最新の活動についてはホームページ(https://www.naru.me/)やX(旧・Twitter、https://twitter.com/mistp0uffer)で配信中。

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