YKK本社機能移転と新幹線で変化「黒部」の今

整備新幹線構想の「夢」を実現した街の実際

黒部市の富山地方鉄道・電鉄黒部駅=2015年10月(筆者撮影)

ただ、黒部宇奈月温泉駅は、市中心部の黒部市役所や富山地方鉄道・電鉄黒部駅から3km前後離れており、富山地方鉄道の新黒部駅や黒部市地域観光ギャラリー「のわまーと」が隣接しているほかは、レンタカーの営業所が立地している程度だ。

市が2016年7月、第2次黒部市総合振興計画策定に際して実施した市民アンケートによれば、20~40歳代の市民を中心に、「新幹線駅周辺の新市街地整備」を求める回答者が3割を占めた。若い世代に、新幹線駅周辺の機能充実を求める声が強い傾向は、他の整備新幹線地域と共通している。

それでも、市としては「カフェやホテルがほしい、という声は聞くが、大きな反発があるとは受け止めていない。新幹線駅前に新たな都市機能を集積させるよりも、公共交通機関の整備で市内各地のアクセス確保に力を入れたい」という。

もともとYKKグループとのつながりが深く、7000人の従業員が地元や近隣市町村から通っているとあって、本社機能の一部移転や、約230人の東京からの異動のインパクトは、地元の視点からはまだ実感しづらいようだ。パッシブタウンの開設に際しては、都市計画道路の整備などを進めたが、パッシブタウンの住民と地元住民の交流、新たな地域コミュニティの創出は、これから本格化させる段階という。

「首都圏とのアクセスが向上し、行く人も来る人も増えて活気が出ている。Uターン者やリノベーションで起業する人も出始めている」と長田課長は語る。2017年11月には、初の移住相談会を東京で開き、約50人が参加した。2018年には、移住希望者を対象とした「お試しツアー」も開催する。

整備新幹線の「夢」を実現

今回の黒部市訪問は、ごく短時間、地元の現状を表面的に確認する程度にとどまった。また、在来線特急を失った魚津市の状況も確認できなかった。それでも、黒部市と他の整備新幹線沿線との差異について、あらためて、いろいろと考えさせられた。

1960年代末に生まれた新幹線ネットワーク構想は「高速交通体系の整備によって産業拠点を国内に分散させ、地域間格差を解消する」という未来像を描いた。しかし、新幹線が開業したほとんどの地域で、うたい文句や対策は「首都圏直結・所要時間短縮」や「観光客と交流人口の増加」に収斂していった。

巨大企業の拠点がある点で、黒部市は例外的な存在だが、整備新幹線構想が描いた「夢」がそのまま実現した数少ない地域といえよう。筆者が住み、人口減少や産業集積の乏しさに悩む東北・北海道新幹線の沿線と比べれば、うらやましい限りだ。

次ページ地元と企業の協働にはまだ伸びしろが
鉄道最前線の人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • 仲人はミタ-婚活現場からのリアルボイス-
  • コロナ後を生き抜く
  • ぐんぐん伸びる子は何が違うのか?
  • ソロモンの時代―結婚しない人々の実像―
トレンドライブラリーAD
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
正規と非正規「格差訴訟」<br>判断が分かれた最高裁判決

非正規労働者が年末年始の待遇や病気休暇などについて正社員との格差是正を訴え、最高裁は格差は不合理で違法とする判決を出しました。一方で賞与や退職金についての格差是正はほぼ全面的に退ける判決も。非正規労働者の待遇は改善するのでしょうか。

東洋経済education×ICT