ただ、黒部宇奈月温泉駅は、市中心部の黒部市役所や富山地方鉄道・電鉄黒部駅から3km前後離れており、富山地方鉄道の新黒部駅や黒部市地域観光ギャラリー「のわまーと」が隣接しているほかは、レンタカーの営業所が立地している程度だ。
市が2016年7月、第2次黒部市総合振興計画策定に際して実施した市民アンケートによれば、20~40歳代の市民を中心に、「新幹線駅周辺の新市街地整備」を求める回答者が3割を占めた。若い世代に、新幹線駅周辺の機能充実を求める声が強い傾向は、他の整備新幹線地域と共通している。
それでも、市としては「カフェやホテルがほしい、という声は聞くが、大きな反発があるとは受け止めていない。新幹線駅前に新たな都市機能を集積させるよりも、公共交通機関の整備で市内各地のアクセス確保に力を入れたい」という。
もともとYKKグループとのつながりが深く、7000人の従業員が地元や近隣市町村から通っているとあって、本社機能の一部移転や、約230人の東京からの異動のインパクトは、地元の視点からはまだ実感しづらいようだ。パッシブタウンの開設に際しては、都市計画道路の整備などを進めたが、パッシブタウンの住民と地元住民の交流、新たな地域コミュニティの創出は、これから本格化させる段階という。
「首都圏とのアクセスが向上し、行く人も来る人も増えて活気が出ている。Uターン者やリノベーションで起業する人も出始めている」と長田課長は語る。2017年11月には、初の移住相談会を東京で開き、約50人が参加した。2018年には、移住希望者を対象とした「お試しツアー」も開催する。
整備新幹線の「夢」を実現
今回の黒部市訪問は、ごく短時間、地元の現状を表面的に確認する程度にとどまった。また、在来線特急を失った魚津市の状況も確認できなかった。それでも、黒部市と他の整備新幹線沿線との差異について、あらためて、いろいろと考えさせられた。
1960年代末に生まれた新幹線ネットワーク構想は「高速交通体系の整備によって産業拠点を国内に分散させ、地域間格差を解消する」という未来像を描いた。しかし、新幹線が開業したほとんどの地域で、うたい文句や対策は「首都圏直結・所要時間短縮」や「観光客と交流人口の増加」に収斂していった。
巨大企業の拠点がある点で、黒部市は例外的な存在だが、整備新幹線構想が描いた「夢」がそのまま実現した数少ない地域といえよう。筆者が住み、人口減少や産業集積の乏しさに悩む東北・北海道新幹線の沿線と比べれば、うらやましい限りだ。
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