あえて女性専用車両に乗る「男性の言い分」 痴漢に遭う女性の9割は30代以下なのに…

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一度の経験で警戒心が芽生え、身動きがとれなくなるような電車には近づかないようにし、駅のホーム上で目をつけられたときにはある程度わかるようになった。そしていったん目をつけられると、執拗に追いかけられるということもわかったのだが、これはかなりの恐怖だった。

筆者も積極的に女性専用車両を利用しているが、40年前に女性専用車両があったら、どれほど心理的に救われただろうかと思う。そしてふと思う。自分は痴漢や露出魔と縁が切れて久しい。女性専用車両が痴漢防止を目的にしたものである以上、被害に遭う懸念がほぼない自分に、実は乗る資格はないのかもしれないのだ。

女性専用車両に異議を唱える男性がいる一方で、さらに増やすべきだと考える男性もいる。その理由は、いつ自らに降りかかるかわからない、痴漢えん罪被害から身を守るためだ。

以前に比べれば、被害に遭った女性が声を上げられる環境は整ってきたとは思う。とはいえ、声を上げるということは、10代の女の子が、受けた被害を詳細に言葉で描写するということを意味する。これは相当にハードルが高い。依然として誰にも相談できず、泣き寝入りしている被害者は多いと思う。

突然人生を暗転させる痴漢えん罪問題

その一方で、グループで役割を分担し、被害者を装って相手から金銭を巻き上げる犯罪も起きるようになった。また、純粋に被害者が加害者を間違えるということも起こりうる。どちらにしても、現状では被害者から加害者であると名指しされると、無実でも有罪にされてしまう確率が非常に高い。ごく普通の市民が、ある朝突然人生を狂わされる。映画『それでもボクはやってない』(周防正行監督、2007年公開)によって、この問題は世の男性に広く認識されるようになった(筆者による周防監督へのインタビュー記事はこちら)。

筆者の知人は「混んだ電車で近くに女性がいたら必ず、鞄は肩に掛け両手バンザイがマスト。女性にはできる限り女性専用車両に乗ってほしいし、そのためには女性専用車両をもっと増やしてほしい」という。戦う個人投資家・山口三尊氏も、混んだ電車内では両手バンザイを実践、株式を保有している西武ホールディングスには毎年、男性専用車両の導入を株主提案している。

こういった痴漢冤罪回避意識の高い男性がいる一方で、混んだ電車内で回避努力をすることなく、不用意に若い女性と体を密着させるなど、いつ犯罪集団の餌食になってもおかしくない、スキだらけの男性も多い。現在の鉄道会社のアナウンスは、男性に協力を求める形のものがメインだが、むしろ痴漢被害に遭いやすい若い女性に、女性専用車両の利用を促すアナウンスをぜひ試みてほしいと思う。

伊藤 歩 金融ジャーナリスト

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いとう・あゆみ / Ayumi Ito

1962年神奈川県生まれ。ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計だが、球団経営、興行の視点からプロ野球の記事も執筆。著書は『ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人 球団経営がわかればプロ野球がわかる』(星海社新書)、『TOB阻止完全対策マニュアル』(ZAITEN Books)、『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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