ミシュラン掲載店が集う「食フェス」の実力 1皿1000円の料理はどこまで「本物」なのか

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それでも気になるのは、出店している店舗の本音だ。北川氏によると、多くがこのフェスのために、実際の店舗を閉めて参加しているという。そこまでして、ミシュラン掲載店が、フェスに出る理由とは何だろうか。

「最初に手紙をもらった時は忙しくてあまり深く考えなかった」と話すのは、墨田・千歳のちゃんこ店「ちゃんこ増位山」の澤田偉貴店長。「そもそも、夏にちゃんこはないなとも思っていた」が、これまで食フェスに参加したことがないことに加えて、ミシュランのほかの店舗と一緒に出せるという状況に関心を持った。同じく人気の鰹(かつお)のたたきを出すことも考えたが、結局、ちゃんこで勝負することに決めた。

初日に訪れた鎧塚俊彦氏から絶賛されたという「ちゃんこ増位山」の「鶏つくね醤油ちゃんこ」(2000円、写真:ミシュランガイド・フードフェスティバル実行委員会)

せっかく出店するなら味は落としたくない。朝5時半に会場入りし、野菜を切るところからすべて現地で仕込んでいる。初日の感触は「さすがにお昼は厳しかった」が、夜になるとビジネスマンなど多くが訪れてくれた。しかも、初日夜には人気店2位にランクイン。スタッフがほかのミシュラン店の味を試すこともでき、刺激を受ける機会になったという。

「こんなに人が訪れると思わなかった」

会場でも行列が途切れることがなかった「リストランテツヅキ」の續正美シェフは、「こんなに人が訪れるとは思わなかった」と驚きを隠さない。出店した理由については、「店で出している料理と変わらないクオリティのものが出せるということがわかったから」と話す。

今回出しているボロネーゼは、開店以来、季節などによってメニューが変わり続ける中で、定番として残っている人気メニュー。「店でも、60代以上の人から、小学生、3、4歳のお子さんまで幅広い層に支持されているので、フェスでも喜ばれると思った」(續シェフ)という。

「うちは、ミシュランに載っているといっても知名度は低い。(最寄りの)都立大学駅から歩いても15分、自由が丘駅からは20分かかる住宅街の中にある。今回、フェスに出たことでいろいろな人に知ってもらえるのは大きい。昨日も、『(近くの)等々力に住んでいるのに知らなかった』と声をかけてくれたお客さんがいた」(續シェフ)。

パンやご当地グルメなど、いまや食フェスは毎週のようにどこかで開かれるようになった。こうしたフェスを通じて、これまで訪れたことのない店や地域の料理を食べる機会が増えるのは、外食産業の活性化につながると言える。が、一方で食フェスが増殖していることで、来場者がフェスそのものに飽きてしまう可能性も否めない。また、せっかく訪れても、料理の質だけでなく、体験そのものが楽しくなければ、一過性のイベントに終わりかねない。

そうした意味では、単一素材や地域とは違う切り口で挑む今回のフェスは興味深い。やや飽和感の漂う食フェスの起爆剤になるだけでなく、食フェスの新潮流となるだろうか。

倉沢 美左 東洋経済 記者

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くらさわ みさ / Misa Kurasawa

米ニューヨーク大学ジャーナリズム学部/経済学部卒。東洋経済新報社ニューヨーク支局を経て、日本経済新聞社米州総局(ニューヨーク)の記者としてハイテク企業を中心に取材。米国に11年滞在後、2006年に東洋経済新報社入社。放送、電力業界などを担当する傍ら、米国のハイテク企業や経営者の取材も趣味的に続けている。2015年4月から東洋経済オンライン編集部に所属、2018年10月から副編集長。 中南米(とりわけブラジル)が好きで、「南米特集」を夢見ているが自分が現役中は難しい気がしている。歌も好き。

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