「新幹線を全国に」田中角栄の鉄道政策とは? 「日本列島改造論」に見る45年前の未来図

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また、田中は鉄道の貨物輸送能力の増強も訴えた。大量輸送時代にあたり、そのすべてをトラックが負担することになれば、道路交通はまひすると田中はいう。そこで、新幹線を造った上で空いた線路に貨物列車を走らせ、貨物輸送力を増強するという考えだ。

都市間の貨物輸送については「これまでのように駅ごとに貨物列車を仕立てたり、切離したりする方式をなるべくやめて、コンテナー専用急行列車で目的地に一気に運ぶ方式を大幅に取り入れる」としている。これは実現し、現在の貨物列車はコンテナ輸送となっている。

だが、国鉄の貨物輸送自体は1970年をピークに輸送量は減少へ転じていった。さらに70年代のストライキ多発でトラック輸送への移行が進んだことで、大きな打撃を受けることになってしまった。

総合交通体系の現状は…

ここまで鉄道に関する政策について見てきたが、田中は交通政策について鉄道・道路などとバラバラに考えていたわけではない。田中が描いたのは、日本全国を「一日交通圏」とするための総合的な交通体系だった。

「日本列島を一日交通圏、一日経済圏に再編成するための前提は、総合交通体系の確立である」。その全体像を実現するために田中がつくったのが、自動車重量税のしくみだった。「道路と鉄道と港湾は総合的、一体的にとらえなければならない」と考える田中は、「自動車重量税による収入を鉄道の建設にも充当するのは、正論なのである。鉄道の建設によって利益を受けるのは自動車だからである」と論じている。

総合交通体系を通じて田中が目指したのは「均衡がとれた住みよい日本の実現」だった。田中内閣時代に整備計画が策定されたいわゆる整備新幹線各線は、すでに開業した路線においては地方と都市の流動を増やし、新たな経済効果やライフスタイルを生む役割を果たしている。最近でいえば、2015年3月の北陸新幹線延伸開業で大きな恩恵を受けた金沢がそのいい例だろう。

しかし、新幹線をはじめとする高速交通の発展は、一方で都市部への一極集中加速や、並行在来線の経営分離などといった問題も生んだ。また、北海道の鉄道は過疎化や自動車交通の発達により維持困難な状況に陥っている。均衡のとれた国土の振興と発展を基礎とする田中の理念からすると、現在の状況は問題だろう。

「日本じゅうの家庭に団らんの笑い声があふれ、年寄りがやすらぎの余生を送り、青年の目に希望の光が輝やく社会をつくりあげたい」との理想を描き、そのために鉄道、総合交通体系に力を注いだ田中角栄。もしいまの鉄道がおかれた状況を見たら、どんな交通体系を描くだろうか?

小林 拓矢 フリーライター

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こばやし たくや / Takuya Kobayashi

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学卒。在学時は鉄道研究会に在籍。鉄道・時事その他について執筆。著書は『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。また ニッポン鉄道旅行研究会『週末鉄道旅行』(宝島社新書)に執筆参加。

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