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松本清張の「作品力」が今でも評価される理由 担当編集者が明かす「精緻すぎる手帳」の凄み

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  • 堤 伸輔 新潮社 学芸出版部編集委員/「フォーサイト」元編集長
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ようやくベッドを出た私が、ドアをノックし先生を朝ごはんにお誘いするころには、この克明極まる日記が出来上がっている。先生の睡眠は3〜4時間。これが取材中の毎日、そして実は日本に戻ってからも年中ずっと続くのである。当時72歳とは信じられないだろうが、執筆したいというエネルギーは、睡眠不足を埋めてなお有り余っていた。

作品の力の強さ

清張文学の真骨頂であるリアリティの高い描写は、こうした取材日記の積み重ねの上に生まれる。むろん、そのまま小説になるわけではなく、作品に合わせて描写や設定は変更されるけれど、その基礎にある材料の分厚さがふつうとは違うのだ。対面取材部分だけではなく、自分の食事や頭に浮かんだことなどの、文字通り日記らしい描写も、これまたみっちりしている。

1992年に清張先生が亡くなったあと、しばらくその作品があまり読まれなくなったように感じた。新潮文庫のラインナップも、絶版がぽつぽつ出て、最多期よりも減っていた。しかし、数年たつと、作品のテレビドラマ化、映画化が増え、文庫の重版もまた続くようになった。いまもテレビ化や映画化の話が複数進んでいる。やはり作品の力の強さだなと、担当編集者として嬉しく思っている。縦書きの大学ノートに、万年筆のきれいな文字で綴られ、得意のイラストもふんだんに入った、あの精緻な日記。そこから抜萃したり読みやすく手を加えたりして本になった部分もあるが、もとの日記原本は、北九州・小倉の松本清張記念館に収蔵されている。

今年の8月4日は、その日記帳が閉じられてから25年となる命日である。

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