外国人投資家が安倍政権の「敵」になる時 安倍首相は大事なことを忘れている

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というのも、5月18日に「ニッポン一億総活躍プラン」などの、新しい成長戦略が伝わったあたりから、商いは一段と減少しはじめたからだ。そして、極めつけが消費増税の再延期報道だ。再延期がほぼ固まりつつあると市場には伝わっているのに、商いが閑散となっていることを考慮すると、足元の薄商いは外国人投資家によるきっかけ待ち云々ではなく、そもそも日本株に対する関心が低下したと考えるのが妥当だ。

ではなぜ、外国人投資家は日本株に対する関心を失ったのか?

まずは規制緩和への踏み込み不足が挙げられるが、今回の伊勢志摩サミットでの、安倍首相の言動も重要な要因ではないだろうか。今回のサミットで、ある意味最大のサプライズだったのは、「世界経済が2008年のリーマン・ショック前の状況に似ており、『危機』に陥るリスクがあると」の見方を首相が示したことだ。

リーマン・ショックというフレーズは最近よく国会の答弁で耳にするが、それは、周知のとおり、来年4月に予定される消費税増税先送りの条件として「リーマン・ショックもしくは東日本大震災級」の事態が発生した際と首相が再三挙げているからだ。

安倍政権が外国人投資家を「敵に回す」ことの意味

今回、市場関係者の多くはこの首相の見解に「?」との考えを持っただろう。実際、筆者は複数の市場関係者の意見を聞いた際にも、「拡大解釈が過ぎる」「消費増税の再延期のいいわけの解釈をサミットで生み出すのはいかがなものか」「都合のいいデータでは」とかなり厳しい指摘が聞かれた。

早い話、「熊本地震で大きな損害が発生し、マイナス金利の効果が顕在化するのはまだ先である」といった理由で、消費増税の再延期を決断してもある程度、国民は納得したように思える。少なくとも市場はネガティブに捉えなかっただろう。しかし、安倍首相はサミットという、まさに「最高の国際舞台」で、言葉は悪いが「自分の発言に都合のいい事象を織り交ぜたデータ」を提出し、半ば強引に「リーマン・ショック」というフレーズを押し込んだように見える。

こうした動きに外国人投資家は失望を通り越し「あきれた」のではないだろうか。筆者はどちらかといえば「アベノミクス賛成派」なのだが、今回のサミットでの首相の言動はあまりに解せない。2012年年末に安倍政権が発足してから、最も「もやもやした言動」を目の当たりにした感じだ。日本人がこう思っているくらいなのだから、外国人投資家が消化不良を起こしているのは想像に難くない。

日本株の上値は重く、商いが閑散とした相場はもうしばらく続きそうだ。もし雰囲気を変えたいのであれば、7月に予定されている選挙以降、痛みを伴う規制緩和に踏み切れるかどうかだろう。

安倍政権は、外国人投資家が買いを入れない限り、日本株は上に動かないという、自らにとっては「大事なロジック」を忘れてしまったのだろうか。逆に言えば、もし外国人投資家を「敵に回す」ことになれば、株安→支持率低下につながり、今後の政権運営にも支障をきたす可能性があるということだ。

田代 昌之 マーケットアナリスト

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たしろ まさゆき / Masayuki Tashiro

北海道出身。中央大学文学部史学科日本史学科卒業。新光証券(現みずほ証券)、シティバンクなどを経てフィスコに入社。先物・オプション、現物株、全体相場や指数の動向を分析し、クイック、ブルームバーグなど各ベンダーへの情報提供のほか、YAHOOファイナンスなどへのコメント提供を経験。経済誌への寄稿も多数。好きな言葉は「政策と需給」。ボラティリティに関する論文でIFTA国際検定テクニカルアナリスト3次資格(MFTA)を取得。2018年にコンプライアンス部長に就任。フィスコグループで仮想通貨事業を手掛ける株式会社フィスコデジタルアセットグループの取締役も務める。

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