血税空港 本日も遠く高く不便な空の便 森功著 ~地方空港整備が招く日本の「空の過疎地化」
さる6月4日、滑走路近くの立ち木の問題で開港が遅れていた静岡空港がオープンした。不況による航空需要の低迷と立ち木問題をきっかけとした知事の辞意表明という事態の中で開港した静岡空港は、離陸直後にいきなり乱気流に巻き込まれた感じだが、厳しい状況に置かれているという点は他の地方空港も同じだ。本書はこのような空港整備の現状と航空行政の問題点をわかりやすく解説した興味深い一冊である。
地方空港の多くは赤字続きで、減便の危機にさらされている。このような状況になってしまった最大の理由は、空港が多過ぎるということにある。赤字に悩む地方空港にとっての頼みの綱は、高い搭乗率が期待できる羽田路線ということになるが、その発着枠を確保しようとすれば羽田は国内路線優先となり、「羽田の国際化」は困難になる。それでは国際線を受け持つ成田はというと、こちらも過去の経緯からさまざまな制約があり、効率的な利用が妨げられていると著者は言う。
これらの問題の根底にあるのは「空整特会」(社会資本整備事業特別会計空港整備勘定)という特別会計の問題である。著者が指摘しているように、特別会計の存在によって「空港づくりそのものが目的化している」という点は、昨年話題になった道路特定財源の問題とまさにウリ二つだ。
こうした中で、着陸料の高い日本の空港は国際競争力を失い、アジアにおけるゲートウェイの役割を果たしてきた成田は、仁川や上海にその地位を奪われつつある。「国土の均衡ある発展」のためとされてきた地方空港の整備によって、日本がアジアの空における過疎地域になるという構図は、漫画としては面白いが、これを単なる笑い話と片付けるわけにもいかない。
もり・いさお
フリーランスのノンフィクションライター。1961年まれ。岡山大学文学部卒。新潮社勤務などを経る。『月刊現代』に連載した「ヤメ検-司法に巣喰う生態系の研究」と「同和と銀行」が2年連続して雑誌ジャーナリズム賞作品賞受賞。
幻冬舎新書 798円 250ページ
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