沈黙は金? 業績予想制度の危機、増える「予想非開示」
「うちが業績予想を出さなかったらどうなるでしょうね……」。ゴールデンウイーク前、トヨタ自動車幹部は今期業績の感触を探ろうとする報道関係者に向けてこう言ったきり、黙ってしまった。
トヨタが5月8日に発表した今期予想は、営業赤字が8500億円(前期4610億円の赤字)に膨らむ厳しい内容だった。株価への悪影響を避けるべく、予想の開示そのものを見送る選択肢もあっただろう。しかし、仮に公表を見送った場合、「トヨタでさえ非開示なのだから」と、他企業がこぞって追随しかねない。前期実績値とともに投資家へ近未来図を提示する今の市場慣行が、一気に崩れる危険性をはらんでいたのだ。
赤字予想を隠さなかったトヨタの「英断」とは別に、今期予想の公表を見送る大手上場企業が目立っている。従来は、相場次第で決算が大きく動く証券会社など特殊な業態を除けば、業績予想の公表は当然の義務と考えられてきた。しかし、東京電力やジェイ エフ イーホールディングスは昨年度に続き今年も非開示。そして信越化学工業などが今回初めて、業績見通しを非公表とした。
「100年に一度」と言われる経済混乱の真っ最中だけに、来年3月末までの業績を見通すことは確かに難しい。だが、企業による業績予想は第一級の株価材料。予想非開示が広まれば、投資の重要な手掛かりが失われる。
もともと、企業の業績見通しには、何らかの色がついている。単なる仮予算や、“願望”が色濃く反映される場合もある。
たとえば自動車業界では、三菱自動車は前期に営業利益は39億円と急減したが、今期は売上高が24%も減りながら営業利益300億円のV字回復予想を発表。アナリスト説明会で質問攻めに遭った。
反対に、手堅い予想を例年出してくるのが富士重工業。今期は350億円の営業赤字予想ではあるが、新型「レガシー」投入などプラス材料を織り込まず、「富士重らしく、控えめに見積もった数字」(欧州系証券)と評価されている。