幸田文 台所帖 幸田文著/青木玉編
台所の音に耳を傾けてみる。蛇口から勢いよく流れ出す水の音、沸騰を知らせるやかんのフタの音、まな板でたたかれる胡瓜のにぶく間のぬけた音……。「お前の台所は、ずいぶんと荒々しく下司っぽいね」。不意に言われ、それまではまったく気をつけたことはなかったので、また叱られたという思いだったと幸田露伴の娘・文は回想する。
露伴はまた「台所帖」からも「音が聞こえてくるようにならなくちゃね」と言う。文が小学校生のときから毎日の献立を書いておくようにと与えていた。ときに、厨房の音を美しくしろ、台所の音をかわいがれ、あるいはうまい音があっていいはずじゃないか、とも言って聞かしつつ、食通、露伴の極意は「きれいに早く、そして音をたてるな」だったようだ。まさに「台所の音」が、そして「台所」が、しつけ、思想、本物とは何かを教えてくれる教室。
台所を媒介として露伴・文・青木玉・奈緒4代の家族史が見事に描かれる。
平凡社 1680円
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