ミャンマー人権活動家が語る、軍主導の「総選挙」のまやかし。日本政府は結果を認めず、欧米やASEANと歩調を合わせ厳しい対応を
──08年憲法はすでに効力を失っているということですか。
すでに廃止されていると私は認識している。というのは、20年の総選挙で選ばれた国会議員は、軍事クーデターの後にオンラインで会合を開き、全会一致でこの憲法を廃止することとした。なぜ廃止したかというと、この憲法がある限り平和な社会を築くことはできないと考えたからだ。同憲法では上下両院の議席の25%が軍人に割り当てられており、軍に有利だ。経済や天然資源も軍が支配できるようになっていた。
──そうした中で軍政は「総選挙」を強行しようとしていますが、やり方にも問題が多いといわれます。
21年の軍事クーデター以降、軍政は見せかけの「総選挙」を実施すべく、準備してきた。24年には「総選挙」に先立って国勢調査を実施したが、実効支配できていない地域が多く、有効な国勢調査にならなかった。また、今回、導入が計画されている電子投票機も、どうやって運用の透明性が確保されるのかもわからない。
もう一つの問題は、今の軍政が、文民による政府を装って選挙を行おうとしていることにある。ミンアウンフライン軍司令官が率いる「国家統治評議会」(SAC)は、このたび「国家安全保障平和評議会」(SSPC)に名称が変わった。それとともにミンアウンフライン司令官自らを大統領代行に任命した。世界に対して「選挙」を行おうとしている主体が軍ではなく、暫定的な文民による政府であるかのごとく装っている。
また、SACはアメリカやカナダ、イギリス、欧州連合(EU)、オーストラリアから制裁を課されているので、その制裁逃れのために名称を変更しようとしたという側面もある。
「選挙妨害」を口実に弾圧を強化
──総選挙に関連して弾圧も強まっているといわれます。
選挙の実施に当たって、軍政は「反選挙妨害法」と呼ばれる、新しい法律を制定した。その法律によれば、選挙の実施を妨害したとみなされた人は3~5年の禁固刑になる可能性がある。電子投票箱を損傷させたり、投票場で妨害行為をしたと認定された場合、7~10年の禁固刑に。さらにそうしたことを集団として行ったとみなされた場合には、終身刑になる可能性がある。
11月初旬までに88人の民間人がこの法律の下で逮捕・訴追されており、その中には、この選挙をFacebook上で間接的に批判した俳優や映画監督、コメディアンも含まれている。
軍政の支配地域に住んでいる人たちは、投票に行くことが義務付けられている。私たちが得ている情報によれば、電子投票箱の機械を操作する際にはまったくプライバシーがない。
また、必ず軍政が「選挙」で勝利するように仕組まれている。選挙への参加を決めているのは57の政党だが、そのうちの多くが退役軍人や超国家・国粋主義者、ナショナリストの仏教政党、麻薬王、クローニー(政権の取り巻き)企業、詐欺拠点を運営している人たちによるものだ。軍政の代理政党のうちで主要なのが、ミンアウンフライン司令官とも親密である連邦団結発展党(USDP)。間違いなく、同党が勝利を収めるだろう。
ヤンゴンや、エーヤワディ、バゴーなどの地域では、そこに住む人たちは軍当局によって投票するように脅されている。




















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