ただ、日本側が台湾を中国の一部だと完全には承認できない理由は、それだけでなく日米安全保障条約の存在もあった。安保条約第6条には在日米軍基地の使用目的に「極東における国際の平和及び安全の維持」もある。いわゆる極東条項である。この米軍基地の使用に際しては日本の意思に反して一方的な行動をとることがないよう、アメリカ政府が日本政府に事前に協議することを義務付けている。
焦点となったのは、この極東の範囲に台湾が含まれるかだった。仮に中国と台湾の間で大規模な武力衝突が起きて米軍がそれに介入する場合には、在日米軍基地の使用が想定される。ただ、仮に日本政府が台湾を中国の一部だと承認すると、台湾は中国の国内問題ということになり、台湾問題に介入するアメリカと立場が異なり、在日米軍基地の使用を理論上認められなくなる可能性が高い。
また69年に沖縄返還を決定した日米共同声明では、「台湾地域における平和と安全の維持も日本の安全にとってきわめて重要な要素である」という文言(いわゆる「台湾条項」)が盛り込まれた。これによって台湾で有事が起きた際に、事前協議で日本側が在日米軍基地の使用を認めないという権利を行使する可能性を限りなく低くする政治的保証をアメリカ側に与え、沖縄の「本土並み」返還への合意を取り付けたという経緯があった。
日本は武力紛争が起きたときの立場も想定
安保条約の適用対象外にならないようにするためにも日本は台湾について絶妙な立場を取る手段を探り、最終的に落ち着いたのが日中共同声明という成果物だ。実際、日中国交正常化後の72年11月8日の衆議院予算委員会で当時の大平正芳外相は安保条約の運用に関しても含めて次のように政府統一見解を答弁している。
(太字による強調は筆者)
この答弁が意味しているのは、日本は台湾問題について中台間での対話による平和的な解決を求めており、「基本的には」とあるように、それがなされている限りでは中国の国内問題であるが、武力紛争になった場合にはその限りでなく、安保条約の適用を含めて日本政府は立場を留保することになる、というものだ。




















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