美術大学を卒業して、いったん別の会社に勤めたが、美術に関係する仕事に就きたいという思いが強く、前の会社を辞めてデザインを担当するアルバイトとして丸井で働いていた。大学では油絵を学んでいたが、広告宣伝用の物品をデザインする仕事はまったくの初めてだった。

販促品と言っても、手掛ける商材は多岐にわたる。マルイに出店する店舗のチラシや商品の値札はもちろん、店内イベントのポスター、イベント参加の特典として配られるクリアホルダーや本のしおりといった関連グッズなどもあり、上司と一緒に依頼主のニーズを丁寧にくみ取りながら、商品の販売に関わるさまざまなものをデザインした。
入社から5年ほど経つと、「デザインを三橋さんにお願いしたい」という依頼も時折寄せられるようになり、徐々に自信がついていった。そんな時、自分のもとに届いた1件の社内メッセージに目が留まった。それが全社員参加型の社内コンクールのお知らせだった。
従業員が好きなことを起点に新しいクレジットカードのビジネス案を企画するというもので、正社員だけでなく、アルバイトやインターン中の学生も対象となっていた。丸井グループで、全社員からの公募によって新しいクレジットカードを企画するという取り組みはこれが初めてだ。
三橋さんは「見た瞬間、これしかないと思った」と振り返る。仕事が軌道に乗ったのも、POP室の上司や先輩社員の支えがあってこそだった。何よりデザインのスキルを何も持っていなかった自分に仕事のチャンスを与えてくれた会社に大きな恩を感じていた。
「人に支えてもらうばかりではなく、今度は自分が誰かを支える側になりたい」。そんな思いを胸に、迷うことなくコンクールへの参加を決めたという。
ミュージアムへの感謝の思いを込める
新しいクレジットカードの案には職場や会社だけでなく、日々の仕事や学生時代を支えてくれたミュージアムへの感謝の思いも込めた。
三橋さんにとって、ミュージアムは学生時代も、社会人になったあとも、大切な場所だ。創作のアイデアを考える時や人生に悩んだ時、そこに足を運べば、新しい知識や視点を得られた。大人になった今だからこそ、一つ一つの品々を見たり、説明文を読んだりして、歴史の重みを感じることができたり、魅力を分かりやすく伝えるための展示の工夫に気づいたりして、心を動かされることが多かった。
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