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機能不全に陥った台湾議会に怒った市民の実態、半年以上にわたり続いた野党議員のリコール運動の顛末

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市民団体主導の罷免運動も、投票にこぎつけた24選挙区中、成立要件の1つである25%の有権者同意票を満たしたのは7つのみである(不同意票が多数で罷免自体は不成立)。罷免支持派も与党支持層すら固めきれず、動員力だけで市民は動かないことを示している。

一方で成立要件の1つをクリアした7選挙区のうち4つは国民党の強固な地盤として知られていることは注目に値する。特に投票率6割超の国民党議員党団リーダー・傅崐萁氏の選挙区である花蓮は、同氏が長年県長を務めた岩盤選挙区にもかかわらず、罷免支持派がこれほど広がったのは異例だ。各党支持層内部にも候補者個人や議会運営に不満を持つ有権者が存在し、彼らが必ずしも支持政党の方針通りには投票しなかったことを示唆する。

「大罷免運動」の中心は30~40代の女性

では、実際に罷免運動を行ったのは、どのような人々だったのか。『報導者』の取材では、過去の罷免運動と異なるいくつかの特徴が指摘されている。まず参加者の主力は2014年に起きた学生を中心としたひまわり運動と異なり、30〜40代のボランティアで女性が多かったという。

世代変化の理由として、多くの参加者がひまわり運動の影響で政治への関心を持ったこと、30歳以上の世代が10年前の国民党政権時代を経験し「反国民党」に馴染みがあること、野党議員による政府予算削減が子育て世代により実感を与えていることなどが挙げられている。

過去の罷免運動経験の継承も重要な特徴だとされる。かつて高雄市長の韓国瑜氏(現立法院長)の罷免時に組成された市民団体のチームが各地の罷免団体に署名戦略などの技術伝授を行ったほか、過去の罷免運動での団体内部の不正事件を教訓に、各団体が厳格な内部ガバナンスを維持したという。加えて、大手半導体メーカー・聯華電子(UMC)創業者である曹興誠氏らが設立した「反共護台志工聯盟」がメディア対応や経費調整を担うなど、実業家による資金援助も大きな影響力を果たした。

そもそも今回の罷免運動が盛り上がった背景には、その支持層が従来の党派の垣根を大きく越えていた点も指摘できるだろう。上述の曹興誠氏はかつて親中派と目されたが、近年は香港情勢を機に鮮明な反共の立場に転じていた。曹氏は、政治系YouTuberの「八炯」氏や、もともと中国に渡って中台の武力統一を訴えていたZ世代のラッパー「閩南狼」氏らなどのインフルエンサーとともに、「反共、護台(台湾を守る)」のスローガンで連携し、街頭集会を盛り上げた。

さらに、統一支持派とされるコメンテーターや有名な退役軍人や退職教員らなど、本来ならば国民党の支持基盤であるはずの層からも国民党議員に対する罷免支持を訴える声が上がった。彼らは、野党が主導する議会運営のあり方や国民党の親中姿勢への不満から罷免支持を表明していた。

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