学校の落雷事故に終止符を、「雷注意報で屋外活動は即中止」命を守る危機管理 「雨が止み雷鳴が遠くなればOK」は大間違い
最高裁判所判決前の控訴審判決(高松高等裁判所判決平成16年10月29日)では、以下と考えられていた。
社会通念上、遠雷が聞こえていることなどから直ちに一切の社会的な活動を中止又は中断すべきことが当然に要請されているとまではいえない。平均的なスポーツ指導者においても、落雷事故発生の危険性の認識は薄い。雨が止み、空が明るくなり、雷鳴が遠のくにつれ、落雷事故発生の危険性は減弱するとの認識が一般的なものであった。
このことから、教員に過失は存在しないとする判決を下した。事故発生当時の一般市民、とくにスポーツ指導者の「常識」を重視した判断と言える。
しかし、最高裁判所は控訴審判決を覆し、教員の過失を認定した。それは次のような前提に立った判断である。
教育活動の一環として行われる部活動においては、生徒は教員の指導監督に従って行動する。教員はできる限り生徒の安全にかかわる事故の危険性を具体的に予見し、その予見に基づいて当該事故の発生を未然に防止する措置を執り、生徒を保護すべき注意義務を負う。
とくに注目したいのは、判決が控訴審判決で依拠したスポーツ関係者の「常識」を否定した点である。
科学的知見に基づく事故防止の重要性
先に触れたとおり、当時、スポーツ指導者の多くは、落雷事故発生の危険性に対する認識が薄かった。雨が止み、空が明るくなり、雷鳴が遠のくにつれ、落雷事故発生の危険性は減弱すると考えていた。
それにもかかわらず、判決はこの「常識」が落雷予防に関する文献等、当時の科学的知見に反するものであり、教員の指導監督に従って行動する生徒を保護すべき注意義務を免れさせる事情とはなり得ないと、一刀両断している。
最高裁判所判決は、常識に基づく危機管理から脱却をすること、そして科学的知見に基づく事故防止、生徒の安全確保を図ることを教育現場に求めているといえるだろう。
冒頭で触れた奈良県での落雷事故を受けて、文部科学省は「落雷事故の防止について(依頼)」を発出している(令和7年4月11日付け事務連絡)。通知には、「屋外での体育活動等において、指導者は、落雷の危険性を認識し、事前に気象情報を確認するとともに、天候の急変などの場合にはためらうことなく計画の変更・中止等の適切な措置を講ずること。特に、指導体制が変わった場合等にも対応に遺漏の無いよう十分留意すること」と記されている。