公立高校「デジタル併願制」、単願制の問題を解決?"満足度高まる"仕組みの期待と誤解 私立も含めた制度の設計が求められる理由
しかし、公立高校だけの併願制導入のような部分的なDA方式では、公立内での戦略的操作不可能性や公平性は達成できるが、一般には、全体としての戦略的操作不可能性や公平性を達成できない。従って、私立高校が公立高校と同じDA方式による併願制に参加しないのであれば、既存の問題点を解決しきれない可能性が高い。
その理由は、単願制では私立に進学していた層が、併願制では公立に進学し、私立に定員割れが生じる可能性があるからだ。その場合、一部の私立が、公立高校のDA方式による合格者が決定した後に2次募集を行うことで、公立DAからの離脱者が発生する。それにより、公立高校の定員割れが増えると、「公立DAで公平なマッチングを決定する」という、当初の目的が達成できない可能性がある。
私たちは、専門家である横浜国立大学 教授の熊野太郎氏の協力を得て、私立高校の公立DA方式への参加を強制せずに、全体としてマイルドな制度設計で、私立公立全体をカバーしたうえで、公平性を達成し、実質的に戦略的操作が不可能な制度の設計を始めている。この制度であれば、現状の変更を最小限にとどめ、私立と公立のどちらかだけが大きく有利になることのない併願制が実現できる。
また個別地域の現状や私立・公立の関係を踏まえた現実的な提案も作成できる。関心のある自治体は、慶応義塾大学経済学部附属経済研究所マーケットデザイン研究センターに問い合わせをしてほしい。記事執筆にあたっては、横浜国立大学の熊野太郎教授、慶応義塾大学経済学部附属経済研究所マーケットデザイン研究センター(SIMDI)の向井仁志研究員、野口宇宙研究員にご協力とご助言をいただいた。

慶応義塾大学経済学部 教授・同附属経済研究所マーケットデザイン研究センター長
京都大学工学部土木工学科卒業、マーストリヒト大学、筑波大学などを経て、2018年より現職。経済学博士(アメリカ・ピッツバーグ大学)。専門は、マーケットデザイン、マッチング理論で、マッチングの制度設計について研究している
(写真:本人提供)

慶応義塾大学経済学部教授、同附属経済研究所こどもの機会均等研究センター長、ガッコム創業者・代表取締役会長
東京大学教養学部卒業、通商産業省、マイアミ大学、世界銀行などを経て2006年より現職。専門は、教育経済学、労働経済学、家族の経済学で、教育政策の効果の因果分析、国際比較等を研究している。アメリカ・シカゴ大学で経済学博士号を取得
(写真:本人提供)
DA方式の高校入試への活用のイメージを実際のデータでシミュレーション体験できる「高校入試デジタル併願制体験シミュレーター」が、SIMDIのウェブサイトにある。関心のある方はこちらへ。
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(参考文献)
栗野盛光. 2019. 「ゲーム理論とマッチング」日本経済新聞出版
栗野盛光・ 熊野太郎.2024「マーケットデザイン総論」共立出版
佐々木宏夫. 2004. “マッチング問題とその応用 : 大学入学者選抜の事例研究” 日本オペレーションズ リサーチ学会第51回シンポジウム『ゲーム理論と離散数学の出会い』予稿集 (2004年3月), 25–43.
文部科学省2021年「学校教育法施行規則等の一部を改正する省令等の公布について」
厚生労働省2023年「令和5年度の医師臨床研修マッチング結果をお知らせします」2023年10月26日
Kumano, Taro and Morimitsu Kurino(2022)“Quota Adjustment Process.”Keio -IES Discussion Paper Series, DP20220- 16
東京大学マーケットデザインセンター(UTMD) 学校選択制検討チーム 2021「公立高校入試制度の再設計に向けた提言: 単願制が引き起こす不公平とその解決策」
(注記のない写真:Fast&Slow / PIXTA)
執筆:慶応義塾大学 教授 栗野盛光、教授 赤林英夫
東洋経済education × ICT編集部
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