公立高校「デジタル併願制」、単願制の問題を解決?"満足度高まる"仕組みの期待と誤解 私立も含めた制度の設計が求められる理由
DA方式は、学校ごとにまったく異なる多様な入学基準が存在することを前提とするので、高校は今まで以上に自由に配点を決めても、多大な事務的コストなく入学者を決められる。とくに、公立高校だけに導入する場合は、従来と同じ5科目の試験を維持し、進学重点校などを志願させる場合には選択的に難問を解く時間を追加すればよい。内申点や学校外活動での特筆すべき達成・資格の評価の比率などは学校ごとに変えてよい。従来、公立高校に対しては、内申重視に対する不満が世間にあったが、内申点重視校・内申点非重視校など、まったく異なる基準も作成できる。
「多様な選抜」は、1つの学校で、面接と作文、筆記試験、少ない科目数での2次募集など、異なる基準で複数回の受験機会を設け、その都度合格を出して少しずつ定員を埋める「複数回選抜」を意味する場合もある。これは、大学入試でも国立の前期・後期入試のように、比較的よく使われている方式だが、戦略的な出願行動を招き、公平性も満たされない。
さらに、受験生はそれぞれ異なる対策を強いられ、個別学校ごとに作文対策、試験対策、面接対策、出願戦略などの指導を行う教育産業を栄えさせ、それらを購入できる人が有利になっていた。ここでも入試の多様化がもたらすコストを考慮し、推薦と一般入試の2つ程度に絞るなど、整理・共通化すべきだろう。
ここまでの2点の議論を踏まえると、偏差値による序列化・輪切り、という批判もほぼ誤解だということがわかるだろう。
序列化とは、単一の尺度によるすべての学校のランク付けである。現在の公立全日制普通科高校入試は、多くの県で、基本的に共通の試験科目・内申点に対する同じ配点で合格者を決めており、進学重点校などの設置も含め、すでに制度的に一定の序列化が生み出されている。その同じ状況で、従来とまったく同じ配点でDA方式を導入すれば、公立高校は一層序列化されるのは確かだ。
しかし、普通科も含め、学校ごとに異なる多様な入学基準を導入すれば、異なる基準で判定する学校間での序列化は生じない。現在も、大学入試で、文系と理系の偏差値の比較が難しいことと同様だ。
DA方式が学校に求めるのは、定員と生徒の優先順位だけであり、各学校は自由に配点や面接などの評価を組み込める。これらの評価方法が学校間で異なり、入学者の優先順位がバラバラであると、偏差値の輪切りが無意味になり、学力だけの序列化は難しくなる。
県によっては、かつて複数志願制の導入を検討したが、「優秀な子どもがすべての学校に合格してしまう。優秀な子どもの特定の学校への集中と序列化が進む」という懸念で断念したということを耳にする。多様な合格基準の下、1校しか合格が得られない今回の方式は、過去の複数志願制とは根本的に異なるのだが「複数志願=序列化」という誤解されたイメージがネット上で進むことは避けなければならない。
また、DA方式は、生徒が偏差値などを気にせずに志願先を決められることがメリットの1つだが、併願校数の上限が少なすぎると、従来同様、併願校選びのために偏差値や合格確率の情報が必要になる。偏差値を気にしなくさせるためには、併願校の上限をなくすことが最も望ましい。
それにより、塾や予備校の個別高校向けの対策、大規模模擬試験への参加の必要性、中学校の進路指導教員の負担は大きく削減される。事実、DA方式を導入している、医師の初期研修先決定において、希望先の登録数に上限はない(2023年度のマッチングでは、最大999の研修先を登録した者がいたという〈厚生労働省2023〉)。
十分な併願校数を許容することで、ほかの生徒の動向や合格確率を考慮することなく、入学したい学校に志願できる。学校も教育内容の個性化にふさわしい多様な入学基準を示し、受験生を引きつけ、入学基準に最もマッチする生徒を入学させる。これこそが、本来実現すべき、教育の内容や質に基づく競争と言えるのではないだろうか。
また、志望校の中から試験結果を基に自動的に入学先が決まるのでは、教育内容や校風から志願した生徒が入学できなくなるのでは、という懸念も目にする。教育内容や校風に対する共感を重視したければ、面接や作文、過去の学校訪問や説明会参加などから読み取れる熱意を数値化し、その配点を高くすればよい。科目配点方式ではなく、「熱意」を優先項目とする辞書式優先方式を導入してもよい。
マッチング理論には、ほかにも望ましい方式が知られているが、得られる結果が異なる。例えば、いわゆるTTC(トップ・トレーディング・サイクル)方式は、DA方式同様に戦略的操作が不可能だが、公平性を満たさない代わりに、DA方式で生じる非効率性(複数の生徒が合格校を交換して皆希望順位の高い学校にマッチできる)を避けられる。
DA方式が世界各国の高校入試で採用されているのは、高校入試では生徒間の公平性が重要なため、それを満たすDA方式が非常に魅力的だからと思われる。しかし、研究者が、社会は公平性を求めていると勝手に想像して、DAを推奨している可能性もある。本来政府が、社会は何を望んでいるかを精査し、制度設計の際には研究者と連携しながら、社会の希望に沿った方式を提案していくことが重要である。
最大の課題は「私立をどう扱うか」
DA方式はもともと、私立も公立も含めた併願可能な学校全体に対して想定されている。両方が同じマッチングに参加すると、私立は、公立と同じ土俵で競争しつつ、不人気校以外は1回で定員が埋まるため、現在のように受験機会を何度も提供する必要がなくなるというメリットがある。受験生側も、1回の受験で私立も含めて複数の志願先を指定でき、低所得家庭にとって負担の大きい受験料支出を抑えられる。