「世界に羽ばたかない」大学でも人気の納得理由、地方の小規模大学が生き残る術 全国の学長が注目する学長・大森昭生氏に聞く

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加えて「偏差値の高い有名大学以外はコストに見合わない」「東大の学費を上げるくらいならFラン大学を潰して助成金を投入しろ」といった過激な意見もある。Fラン大学とは、いわゆる入学難易度の低い大学を揶揄する俗称として使われている。

「全学部がFランクの大学は1割程度ですし、たとえなくなったとしても相対的なものですから大学の地図は変わりません。偏差値が低い大学が教育力の低い大学というわけではないし、むしろ教育力の高い大学も多い。今も、東大を中心とする昭和の大学観で語られていて、大学とは何なのか? という価値観を変えなくてはならないと考えています」

そのうえで、「本当に地方の大学がなくなっていいんですか?」と大森氏は問う。これからも地方の大学はどんどんなくなっていくと。

「東京の名のある大学しか残さないのであれば、群馬の人材を誰が育てるのでしょうか。東京の大学が群馬に人材を返してくれるのでしょうか。教員や保育士、介護福祉士など、地域の生活を支える人材を育てる大学は全国にあります。経営判断だけに任せれば閉校という選択肢になるかもしれませんが、いなくなったら困る仕事をする人材を育てているからこそ赤字でも大学を維持しているのです。地方行政にとって私学は管轄外ですが、地域の未来を考えると大学問題は国だけではなく地域にとっての課題でもあるのです」

すでに動いている地域もある。大分県では県内の産業界、地方公共団体、高等教育機関が連携する「おおいた地域連携プラットフォーム」に予算をつけている。福井県では、2025年度から緊急対策事業を実施。県内で保育職・教育職に従事することを目指す学生を対象にした、奨学金や家賃補助、報奨金の制度が作られた。

そして今年度、文科省も地域の大学と自治体、関係者の連携、地方創生の推進を掲げて「地域大学振興室」を立ち上げた。では、共愛学園前橋国際大学はこれからの時代をどう乗り越えていくのだろうか。

「2026年4月にデジタル共創学部を設置したいと考えています。国の支援を受けながら、社会のニーズに応える人材を育てていきます。本学は群馬のための大学ですが、群馬県では昨年の出生数が9000人台となりました。新学部の設置とともに対象範囲を周辺地域にも広げ、文系だけでなく学問分野的にも対象範囲を広げたいと思っています」

そう語る大森氏の頭の中には、こんな構想がある。

「県内の各大学が定員を減らし、収入が減った分を共同開設科目や共同入試などでコストを按分し、生き残っていけるスキームを提案したいと考えています。130年以上の歴史がある本学を残したい思いはもちろんありますが、群馬の子にとって大切なのは、どの大学を残すかではなく群馬で大学に通えること。もちろん成り立ちも文化も設置者も違う大学同士でうまくいくかどうかは時間がかかります。不可能と判断したら他の方法を考えなければいけません。だからこそ、できるだけ早くスタートを切りたいと考えています」

世界に羽ばたかせるためのグローバル教育から、世界に羽ばたかずとも、地域にいながら地球規模の視野を持つグローカル教育へ。地域を支える人材を育ててきた地方大学とどう向き合っていくべきか。教育界だけでなく、国と地方、そして子どもに関わる人みんなで真剣に考えていく必要がありそうだ。

※ 日本私立学校振興・共済事業団「令和6(2024)年度 私立大学・短期大学等 入学志願動向」

(文:吉田渓、注記のない写真:すべて共愛学園前橋国際大学提供)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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