「世界に羽ばたかない」大学でも人気の納得理由、地方の小規模大学が生き残る術 全国の学長が注目する学長・大森昭生氏に聞く

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就職指導も、バスを連ねて東京の就職フェアに送り出すのをやめ、地元企業の就職率アップに努めると、県内から学生が集まるようになった。

あらゆる施策を打ち続けるうちに志願者も入学者も増えていき、2025年度には在籍学生数が過去最高となった。今や学生の9割が群馬県出身、8割の学生が群馬県内に就職する大学になった。地域と共生する、というビジョンがまさに実質化されたわけだ。

現場で一緒に活動し、声がかかれば即反応

大学にとって重要な地域との連携。難易度が高いという声もあるが、成功に導く秘訣はあるのだろうか。

「成功の秘訣を尋ねられたら、私は『(地域の)草むしりしていますか?』とお聞きしています。もちろん、草むしりだけでうまくいくわけではありませんが、大事なのは地域の方や産業界の方と現場で一緒に活動すること。私自身、群馬経済同友会などさまざまな会に会費を払ってメンバーとして活動しています」

市役所や地元企業から「こういうことをやりたい」と声がかかると、まずは「合点承知です!」と返すという。

「すると、地域の人が『まずは共愛さんに相談してみよう』と思ってくれるのです。教職員それぞれに地域の方との関係ができてくると、企業から『こんなことしてみない?』という話がきます。もちろん実現できないこともありますが、大切なのは、それが学生のためになるかどうか。そのビジョンを教職員が共有しているので、『持ち帰って検討します』ではなく、『やりましょう!』と言えるのです」

群馬県前橋市にあるキャンパス。写真は学生や地域の人々が集う「KYOAI COMMUNITY HALL」や「PROJECT ROOM」など、学生と地域の人との集いと学びの場を備える新校舎「KYOAI GLOCAL GATEWAY」。写真の続きを見る

今では新しい出会いを学生がつくることもあるという。こうしたあり方を同大では地域連携ではなく「地学一体」と表現する。

「連携とは別の組織が協力すること。しかし、本学は群馬や前橋の一部ですから、地域と別物ではありません。また、人材が必要なのは地域や産業界のみなさんです。教育のプロであるわれわれは学びの場づくりや、取り組みを学びに昇華するテクニックがあります。しかし、現場や実践は大学の中にはありません。だからこそ、『地域と大学が主体として一緒に一人の若者を育てませんか』、それが『地学一体』ということなのです」

対象地域が明確なぶん、さまざまな取り組みを地元メディアが取り上げてくれる。見てくれた人が街中で声をかけてくれる。そんな等身大の出会いが生まれやすいのも地方大学の強みだろう。

「本学と同じことをほかの大学さんがやっても必ずしもうまくいくとは限らないでしょう。本学がある前橋市は群馬県の県庁所在地と立地に恵まれていますし、地域によって少子化の進行度は異なりますから」

大学問題は「地域の未来」に関わる地域課題

少子化が進み、約6割の私立大学が定員割れする今、地方の私学を取り巻く状況はとくに厳しい。

「3〜4割の大学が定員割れしていた時代とは違う、2023年に私学の53.3%が定員割れになった時点で政策の問題になったと私は考えています」

もはや個々の大学の頑張りで乗り越えられるような問題ではないということだ。近年は、財源が税金である私学助成について、経営の厳しい大学の延命策になっているのではないかと取り沙汰されることも多い。

「国から私学に助成されるのは運営費の約9%です。基本は学納金で運営していますから、補助金がないと潰れるのであればとっくに潰れているでしょう。さらに『私学は儲かっている』というのも誤解です。学校法人は税金を免除される非営利組織なのです。だから利益が出ない。校舎など施設補修のための蓄えなどはあるものの、単年度会計で使い切っていきますし、学生の定員は決まっているので、頑張っても教職員の給料は変わりません。単年度で見れば赤字の私学がいくらでもあるでしょう」

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