国税記者 実録マルサの世界 田中周紀著 ~綿密な取材で活写される「沈黙の艦隊」の素顔
評者 津田倫男 フレームワーク・マネジメント代表取締役
本書は通信社、テレビ局に身を置いた著者が、取材した脱税容疑者に時に「一発お見舞いしてやりたい衝動」と闘いつつ、「身の危険」も感じながら取材した記録である。
冒頭から「たまり」(脱税した資金の「溜まり」)、「ナサケ」(内定調査で得た「情」報)、「ミノリ」(強制調査の「実」施)といった業界用語が飛び交い、「マルサ」で有名になった国税局査察部などによる脱税取締りの状況が明らかにされる。
査察が地検への告発の対象となるのは、「悪質な仮装、隠蔽工作が意図的に行われていて、主に三年間の所得隠しの合計額が一億円を超える」ケースだという。大企業や大組織の場合は、これに対して工作が高度なためなかなか発覚せず、中小企業やにわか成金の場合はそれがずさんでばれやすいようだ。
国家公務員法と税法の二つで秘密保持の義務を負う国税当局は「沈黙の艦隊」とあだ名されるほど口が堅く、当局の役職員から脱税情報を取るのは至難の業だが、ベテランには“蛇の道はヘビ”らしい。
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