「不登校」過去最多の日本、米国の心理カウンセラーが懸念する支援の問題点 背景の多くに「心理的問題」、必要な体制とは?
――日本でも2017年に公認心理師が国家資格となりました。また民間資格では、国内においては認知度や取得難易度が高いものとして臨床心理士が挙げられます。カウンセリングを受ける際は、日本でも資格を持つカウンセラーを選ぶことが大切だということでしょうか。
日本の場合、悩ましいのは公認心理師や臨床心理士の資格を持っているからといって、必ずしも質の高いカウンセリングの提供が保証されているわけではないということです。
公認心理師の受験資格は、基本的には大学と大学院で必要な科目の単位を取得したうえで大学院を修了しているか、大学で必要な科目の単位を取得したうえで大学を卒業した後に、指定施設で実務経験を2年以上積んでいることが条件となります。臨床心理士の場合は、指定の大学院を修了していることなどが受験の条件となります。
このうち公認心理師については、制度施行後の経過措置として、2022年度までは大学や大学院で必要な単位を取得していなくても、心理職として5年以上の実務経験があれば、講習を受講したうえで受験することができました。そのため経過措置中には、養護教諭や保育士といった方が合格されています。失礼ながら、心理カウンセリングについての専門的なトレーニングを受けていない方が、カウンセリングができるとは思えません。経過措置期間中の特例は、質の担保という点で問題がありました。
また、先ほど述べたように、アメリカでは大学院卒業後の3000時間のインターン中に、週1回スーパービジョンを受けないと国家試験の受験資格は得られません。心理職の専門家になるためには、実践的な指導の下で技術を磨き、クライアントに対する適切な対応力を身に付けることが不可欠だからです。ところが、日本の場合は公認心理師も臨床心理士も、スーパービジョンが義務づけられていません。こうした制度的な遅れが、日本の心理カウンセリングの質の差につながっている面があります。
低すぎるSCの地位、支援の中心となるべきは「専門家」
――日本のスクールカウンセラー(以下、SC)の現状については、どうご覧になっていますか。
日本のSCは多くの場合、1年任期の会計年度任用職員です。カウンセリングは大変な仕事なのに地位が低すぎますし、子どもたちに対して継続的な支援が保証できません。つねに契約更新の不安を抱えながら働かなければいけない状況では、支援の質にも大きな影響が出てしまうでしょう。
また心理カウンセリングは、基本的に週1回は行う必要があります。しかし現在のSCの配置状況は自治体差もあるようで、カウンセリングの必要がある子どもやその保護者に対して、週1回のカウンセリングを保証するのは難しそうです。
――心理カウンセラーに関する制度面や体制面での改革が欠かせないということですね。
不登校の背景には多様な要因が絡み合っています。例えば、いじめられた場合や、発達障害の子どもが適切な支援を受けられず登校できなくなるケースでは、学校側が対応を見直すべきであり、誰もが通いやすい体制づくりなどが求められるでしょう。心理専門職の制度を整えるだけで、すべての不登校課題が解消されるわけではありません。
しかし一方で、不登校の子どもの多くは、心理的な問題を抱えています。そのため不登校支援の中核となるべきは心理カウンセラーや精神科医、心理学者であり、そうした専門家による支援システムの構築が不可欠だと考えています。この土台がなければ、どのような取り組みも成果は出ないのではないでしょうか。
(文:長谷川敦、注記のない写真:Fast&Slow/PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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