役員のなり手不足や教職員へのPTA業務依存が課題

2025年3月末。滋賀県立長浜養護学校(滋賀県長浜市)PTAが解散する。小学部・中学部・高等部からなる同校PTAの会員は323人(保護者207人、教職員116人:2025年2月現在)存在するが、役員のなり手不足や教職員へのPTA業務依存が長年の課題だった。

同校のPTA会長を務める藤居貴之氏は、こう話す。

藤居貴之(ふじい・たかゆき)
2021年〜2022年度長浜養護学校PTA副会長を経て、2024年度同校PTA会長
(写真:本人提供)

「本校のPTA組織は、いわゆる従来型。本部役員会の下に4つの部会がありますが、本部役員の立候補者はほとんどおらず、最終的に教職員が保護者に依頼し一部の人だけに責任と負担が生じている状況が続いていました。また、本来PTA活動は、P(保護者)とT(教職員)が連携して行うものですが、本校においては、案内文書の作成や広報誌の制作など多くの活動を教職員会員が担っています。地域の慣例的な側面があるにせよ、児童生徒と向き合う時間がPTA業務にあてられてしまっている状況をどうにかしたいと。

さらに、共働き世帯の増加、特別支援学校で子どもの通院やリハビリなどが必要な家庭が多いことによるPTA活動参加へのハードルの高さも課題でした。これらをふまえ、2024年5月、本部役員会(会長、副会長、教職員担当者、管理職)を『長浜養護学校PTAあり方検討委員会』と位置づけ、今後のPTAのあり方について1年かけて検討することを提案しました」

PTA総会においても検討を進めることが承認され、同年6月から10月、会員に対しPTA意識調査アンケート、PTA活動にかかる時間実態調査を行ったのに加えPTA会員座談会や個別説明会を開催し、広く意見を聞く機会を設けた。

PTA意識調査アンケートの回答率は、約50%。「PTAは必要だと思うか」の問いに対して、「必要」と回答した保護者は16%、「不要」と回答した保護者は30%、「わからない」と回答した保護者は54%だったという。

「『不要』と回答する保護者が7、8割を占めると予想していたのですが、『わからない』と回答した保護者が半数以上いたことに、正直驚きました」と、藤居氏は言う。

「『わからない』という意思表示は『(PTAは)あってもなくてもいい』ということであり、その根底に流れるのは『PTAの存在や活動への無関心』といえると思います。ただ、この無関心は、会員に非があるのではなく、一部の人間だけで物事を決めざるをえないこれまでの体制によってもたらされたもの。

結果的にトップダウン的な運営になり、言いたいことがあっても言う場所や機会がなかったことが起因となっているととらえています。また、『PTAの目的は、学校のお手伝いや奉仕作業を行うこと』と思い込んでいる会員が少なくない傾向もみてとれました」(藤居氏、以下同じ)

全サポーターが運営に関わることができる「開かれた組織」に

調査結果や議論の内容をふまえ、現状のPTAのあり方での継続は困難と判断。必要な活動は残すことを前提とし、残った課題を解消する手段として、

① 2024年度でPTAを解散し、2025年度から新たな仕組みをつくる
② PTAを存続し、委員の削減やデジタル化を図る

2つの方向性について検討した。その結果、①の方向性が「必要な活動を残しつつ、なり手不足や過度な負担の解消及び軽減につながる」と裁定。2024年11月に臨時総会を開催し、2024年度でPTAを解散し、2025年度から新たな仕組みをつくりリスタートすることが決定した。

新たな仕組みの名称は、「学校伴走型サポーター制度Asukumu(アスクム)」。「アスクム=明日を組む」で、「児童生徒、学校、サポーター全員の明日を考えサポートしよう」という思いがこめられている。

希望者が登録してサポーターとなるサポーター制度で、小・中・高各学部の保護者が2人ずつ、計6名が運営委員会となり学校と連携する。

これまでの専門部は廃止。運営委員会が主体となって年度始めにサポーターが集う座談会を開催し、活動内容を決める。全サポーターが運営に関わることができる、「開かれた組織」となる。学校側も、連絡ツールを活用し、校外活動の見守りや降雪時のスクールバス停留所状況の報告など、必要に応じて協力をよびかける仕組みだ。

新体制について解説されたサポートブック。サポーター登録者に配布する
(写真:藤居氏提供)

PTA解散に伴い、県特別支援学校PTA連絡協議会からも退会した。これまで同協議会を通じて行ってきた学校環境向上など保護者からの要望は、アンケートアプリを活用し、集まった声を学校担当者も含めて共有し精査した後、市や県に独自で声を届けるという。

「運営委員会の役割を、座談会の開催、サポーターからの声のとりまとめ、必要に応じて市や県に提出、校内委員会への出席と明確化しました。2024年11月から12月にかけ、新年度からの新体制スタートに先駆け運営委員会メンバーの選出、サポーター募集を行ったところ、運営委員会6名はすんなり決まりました。サポーターも、100名を超える保護者、教職員の方々から登録いただきました」

新体制でのサポート活動を行うには最低限の資金が必要になるが、「以前のようにPTA会費を集めて決められた事業に使うのではなく、座談会を通して発生する活動や学校のニーズに合うサポートを行うために、アンケートでも賛同の声が多かった『学校支援協力金』(一口3000円)という形で協力を呼びかけることにしました」という。

昨今広がる「PTA不要論」に対しては、こう話す。

「PTAあり方検討委員会でさまざまな議論を重ねる中で気づいたのですが、PTAが必要か不必要かを論じることに、あまり意味がないんですよね。大切なのは、保護者と教職員が、子どもたちの学ぶ環境をよりよくし、笑顔につながる活動を行うためにはどうすればよいかを考え伴走していくことなのだと思います。

長浜市は地方都市で、人口減少が続いています。このような状況の中で、これまでの在り方を活発に議論し新しい取り組みにチャレンジしていくことが、子どもたちの教育にもよい影響を与え、地域の活性化や人口減少の歯止めにつながるのではないかと考えています」

ボランティアは集まるのに本部役員が決まらないのが課題

千葉県流山市立小山小学校PTAは、2025年3月に解散予定。これまでPTAが担っていた活動の一部を、市教育委員会が委嘱する「地域学校協働活動推進員(コーディネーター)」が担う地域学校協働本部に移管する。

きっかけは、コロナ禍でPTA活動の休止を余儀なくされたことを機に行った、組織や運営方法のスリム化だ。

2020年度から同校PTA会長を務める峰松拓毅氏は、こう語る。

「それまでのPTAの半強制入会やポイント制を見直すのと同時進行で、コミュニケーションツールLINE WORKSなどを中心にデジタル化を進め、保護者同士が対面で集まらなくても滞りなく運営できるような体制を整えてきました。

また、児童数1600人を超えるマンモス校である本校では、登校時に子どもたちが安心安全に通学できるよう学区内だけで26カ所で旗当番を実施しています。60名を超える地区委員に担当エリアの旗振りポイントの当番表作成やその配布をお願いしていたのですが、毎年なり手がいないことも課題でした。そこで、外部委託により当番表作成のためのデジタルツールを導入し、PTA本部ですべての地区を一括管理することが可能になりました。地区委員やその他の委員会も段階的に縮小・廃止していき、保護者、本部役員、教職員の負担軽減に努めてきました」

峰松拓毅(みねまつ・ひろき)
2020年〜2024年度流山市立小山小学校PTA会長、2024年度より流山市立おおぐろ森中学校区コミュニティ・スクール(学校運営協議会)会長。2023年度に有志で「子どものための保護者活動を考える会」を発足
(写真:本人提供)

会費の納入、活動への参加を保護者が選択できる「入会届が不要のPTA」を実現。組織をさらにシンプルにし、残していく活動に関しては、募集してできる人ややりたい人が参加するボランティアベースに切り替えた。

結果、PTA会費を見直し段階的に減額、今年度は会費ゼロに。保護者や教職員の負担が少なく風通しのよい組織となったが、課題が1つ残った。

「保護者の皆さん、ボランティアには気持ちよく参加してくれるのですが、本部役員に手が上がらないのです。本部役員は、完全立候補制。報酬をつける、特典・特権を提示して募ろうかという案も出ましたが、それを目当てに人を集めるのもどうか。もっと純粋に子どもたちのために活動してほしいよね、と。本部役員の人材難が課題でした」(峰松氏)

これまでのPTA業務を地域学校協働本部に移管

小山小には、もともと「地域学校協働活動推進員」が存在し、ミシン授業サポート、PC授業サポートボランティアなど学校支援ボランティアを、ボランティア登録している地域の方や卒業生の保護者などに向け都度募っていた。

地域学校協働活動推進員(以下、地域コーディネーター)とは、教育委員会から委嘱される学校と地域をつなぐコーディネーターを指す。学校との連絡調整や情報共有、地域と学校の協働活動の企画・運営を行うのが主な役割で、活動に対する謝金が教育委員会から支給される。

「PTA活動をボランティアベースに切り替えた頃から、本校の地域コーディネーターと連携しながら活動していたのですが、PTAが行うボランティア活動と地域コーディネーターによる活動が重なる部分がありました。そこで、類似している活動をより持続可能な地域学校協働本部に一元化すること、また、PTAを将来的に解散することを視野に、運営委員会で検討を始めました」(峰松氏)

2023年度から小山小地域コーディネーターを務める志賀えり氏は、PTA本部役員としてIT担当も務めており、LINE WORKSを使ってボランティア募集や学校、ボランティアとの相互連絡を行っていた。地域コーディネーターとして、PTAから管理を引き継ぎLINE WORKSの運用を継続することで、同様の活動を行うことができる。

「双方向のコミュニケーションが可能なデジタルツールを活用できる土壌があり、地域コーディネーターである私とPTA会長との連携がスムーズだったからこそ、PTAの業務を地域学校協働本部に移管することを現実的に捉えることができたと思います。ただ、PTAは解散する想定でしたが、これまでのPTA運営を通して子どもたちにとって必要だと思う活動は減らすつもりはありませんでした」(志賀氏)

志賀えり(しが・えり)
2023年度より、おおぐろの森中学校区地域学校協働本部・小山小地域学校協働活動推進員(コーディネーター)。小山小PTAでは2022年度に本部書記兼IT担当、2023年度より特別委員
(写真:本人提供)

さまざまな議論をふまえ、2024年度は、PTA業務を学校・地域学校協働本部に徐々に移管。必要な活動は継続して実施できることが確認でき、2025年1月、PTA解散の是非を問うPTA臨時総会を行い、賛成多数によりPTA解散が可決された。

PTA会費の余剰金は、一時的に学校に預かってもらう形をとり、今後は「協力金制度を導入して学校・教育委員会に段階的に移管」など検討を進めていくという。

「PTAがなくなったとはいえ、私はあくまでも一保護者、一地域コーディネーターであり、保護者代表ではありません。地域コーディネーターとしての任務を果たしていくだけです。これまでPTAで担っていた広報や地区活動などの通年ボランティアは、ボランティアごとに自走していただくのが理想ですが、必要に応じて先生との間に入るなど、臨機応変に対応していく予定です。

同じ地域学校協働本部で活動する他校の地域コーディネーターさんと連携しながら、子どもたちへの教育が充実し、先生にゆとりを持って教壇に立ってもらうための活動にも取り組んでいきたいですね」(志賀氏)

保護者と教職員が協力し、子どもたちの学校生活をよりよくしていくためには、保護者の声をまとめ、保護者を代表して学校や教育委員会に働きかけていく役割はなくすことはできない。

2024年度から、小山小を含む3校の小・中学校でコミュニティ・スクール(学校運営協議会)が始まり、同会長も務める峰松氏は、こう話す。

「本校PTAではこれまでも、PTAへの意見や問い合わせをいつでも受け付けるフォームを設置してきました。これらの声は、今後はコミュニティ・スクールで反映していきたいと思います。学校レベルで解決できることとそうでないことがあるので、うまくハンドリングしながら進めていきたいと思います」

PTAの形に固執しない新しい保護者組織

小山小PTAは、2023年3月に流山市PTA連絡協議会(流山市P連)を退会した。

「一番の大きな理由は、市内の小中学校の声を集め、行政に届けるという地域のP連本来の役割を果たせていないことです。負荷が少なく意義のある活動ができる組織となるよう働きかけましたが、議論が平行線で終わったことから、市P連に加入し続ける意義を教職員・保護者に説明していくことは難しいと考え、退会を決めました」(峰松氏)

その後、峰松氏を含む市内のPTA関係者が中心となり、P連の役割を担う有志団体として「子どものための保護者活動を考える会」を発足。「子どもも親も住みやすい街を、行政と共創していくこと」を目的に、行政等から情報収集した子育て・教育施策にもとづき通学路安全対策やいじめ対応などをテーマとしたシェア会を行い、その結果について教職員や保護者から集めた要望も添え、行政へのフィードバックなどを行っている。

「この組織には、保護者だけでなく、地域の方々やOBOG、未就学児の保護者など、さまざまな立場の人が参加しています。PTAやP連、コミュニティ・スクールの意義や役割を発信しながら、子どものための保護者活動の担い手がつながる場としても機能させていきたいと思います」(峰松氏)

異なるアプローチを取りながらも、両校に共通するのは、「選択と集中」だ。PTAの形に固執するのではなく、時代の変化や地域・学校の状況に合わせて柔軟に組織を再編し、子どもたちにとって本当に必要なものは何かを考え抜いた先に、新たな保護者組織のカタチが見えてくる。

>>>これまで『東洋経済education×ICT』で取材した「PTAを解散した学校」の記事をまとめた資料を読みたい方はこちらから

(企画・文:長島ともこ、注記のない写真:TM Photo album / PIXTA)