ガバナンス不全、上意下達の全国大会が問題視されていた日P
全国の小・中学校にあるPTAの最上位団体として、2024年12月現在、各都道府県や政令指定都市にある計60のPTA連合(=各校PTAが自治体単位で集まって作られた組織/以下、P連)が加入し約700万人の会員を擁する公益社団法人「日本PTA全国協議会」(会費:子ども一人あたり年10円)。
1952年に発足した日Pは、2013年4月「公益社団法人」に移行。教育を本旨とする民主的団体として、家庭教育やPTA活動の資質向上を目的とした日本PTA全国研究大会(以下、全国大会)や講演会の開催、広報紙の発行などの事業を行っている。
本来なら、PTAの全国組織としてPTA連合の下支えをしたり、国に対し全国の保護者の声を集め提言を行ったりする組織であるべきところであるが、かねて各地のP連関係者から「メインの事業である全国大会の運営に力点をおき、本来の役割を果たしていないのではないか」「意思決定プロセスが不透明」「事務局不在の時期がありガバナンス不全」などの声があがっていた。
中でも毎年各都道府県・政令指定都市が持ち回りで開催する全国大会については、企画・運営を行う開催地のP連関係者の負担や上意下達的な運営方法について疑問視する声が多く聞かれた。そんな中、2022年度の決算で約5000万円もの赤字計上、2023年7月には当時の会長・金田淳氏の突然の解任など騒動が続いた。
一連の流れをふまえ、東洋経済education×ICTでは、日Pの活動に関わった保護者に現状と課題について取材。それを受け、解任された金田氏に代わり2023年7月に日P新会長に就任した後藤豊郎氏に新たに取材(取材日:2023年9月28日)。2023年11月2日に前編記事、11月3日に後編記事をお届けした。
取材時、後藤会長(当時)は、
・前会長・金田氏解任の理由は、当時の事務局員へのハラスメントなどによるものである。
・約5000万円の赤字のうち約3000万円は宿泊費や会議費、広報紙の印刷製本費等、約2000万円は、事務所である日P会館(東京都港区)の雨漏りなどによる修繕工事によるもの。今後は財務ワーキンググループを立ち上げ、予算の出庫状況をしっかり管理し、各P連代表者に逐次説明していく。
・ 全国大会は開催県、開催市の土地柄なども考慮しながら当事者が主体的に企画・運営する体制をめざす。
・ 今後は人材育成に力を入れ、日本の社会教育に携わる団体として、理事、役員、P連代表者を含めた行動規範を含めた倫理規定の整備にも着手する。
と語った。
「暗躍するOBの存在」と「組織としての自浄作用の欠如」
ところが、2024年7月。事態は急転した。
2018年から日Pの理事などを務め、さいたま市PTA協議会元会長でもある青羽章仁被告が、日P会館の修繕工事費を巡る背任容疑で逮捕=業務上横領、背任罪で起訴=されたのだ。
起訴状によると、青羽被告は、2022年8月~2023年1月、日P会館の雨漏り修繕工事にからみ、自らの利益を得る目的で工務店に代金を水増し請求させ、本来の見積価格は約670万円だったにもかかわらず、日Pに約1200万円の損害を与えたとされる。
さらに同月。金田氏がハラスメントを行っていたとみられていた事務職員と事務局長が、逮捕前に出入り禁止になっていたはずの青羽被告を日常的に事務局に出入りさせ、新たに135万円の不正支出を生んだとして懲戒解雇された。
これはいったいどういうことなのか。
2023年9月の後藤会長取材の時点で、日P内部では、青羽被告の背任にうすうす気づいていたのではないか。
同じく9月の取材時に資料として取材陣に配布され、金田氏から事務職員へのハラスメントについての記述も含まれた文書「金田氏解職までの経緯」の内容は、虚偽だったのか。
事の詳細を確かめるべく、金田淳氏に話を聞くと、日Pの「闇」が浮かびあがってきた。「闇」とは「暗躍するOBの存在」と「組織としての自浄作用の欠如」だ。
金田氏は栃木県PTA連合会の会長、日Pの専務理事を経て2022年度に日Pの会長に就任。これまでの日Pの旧態依然とした体制を刷新したいという思いから、新体制のスタートにあたり「発信力の強化」「情報連絡機関としての役割強化」「PTAを取り巻く課題の検討」「組織の透明化」「PTA会員の皆さまから意見を集約するシステムを構築する」など「改革10か条」を掲げ、所信表明を行った。
「内容としては当たり前のものです。ただ、これまで当たり前のことができていないと思ったので、改めて示しました。これまでの日Pの体質を知っている人からは、『やっとこのように考えるリーダーが出てきてよかったです』と喜ばれました」(金田氏、以下同じ)
一方で、青羽被告は2018年から日Pの理事などを務め、事務局を事実上統括し、不正会計にからんでいたとみられる。
金田氏は、翌年の2023年度も日P会長に再選。2023年6月の総会で、2022年度の赤字が約5000万円計上されたことが報告され、「私自身もずっとおかしいと思っていた日P会館修繕費約2000万円について、徹底的に原因を究明することを約束しました」。
だが、翌7月、金田氏は、事務局職員に対するパワハラを理由に、突然会長職を解職された。金田氏は言う。
「なぜこのような事態になったのか、その理由は明白です。かつて日Pで要職を歴任したOBたちが、いまだに組織に強い影響力を行使しているからです。彼らは『日Pの要職だった』という自負を捨てきれず、名誉や地位にしがみついています。報酬の有無については定かではありませんが、いわゆる“あて職”として、日P引退後も関連協議会や一般社団法人の理事、大学の経営協議会の委員などを務めているだけでなく、現日Pの会長、専務理事、常務理事の人事に口を出し、自分たちに都合のよい人材を送り込もうとしているのです」
さらに、こう続ける。
「私が2022年度の赤字問題を追及しようとした時点で、不正を隠蔽したい青羽被告、改革の風潮を快く思っていないOB、権力を手に入れたい当時副会長だった後藤氏の利害が一致してハラスメントをでっちあげ、解職に追いやったとみています。さらに、事務局が、不正の疑いのある青羽氏を出入りさせ続けていたことでさらなる不正支出を生み、問題を大きくしました。これにより、自浄作用が働かない日Pの現状が露呈されました。図らずも、青羽被告の不正の隠蔽に組織として加担した構図になっているのではないでしょうか」
2023年9月、後藤会長から聞いた言葉と現実とのギャップに、言葉が出ない。
金田氏は現在、「事実無根のパワハラ認定により精神的苦痛を受けた」として、日Pを相手に民事訴訟を起こしている。
文部科学省が日Pから距離を置き始めた
2024年8月23日〜24日――神奈川県川崎市で全国大会が開催された。同時期、青羽被告逮捕などのニュースが世間を騒がせていた影響もあったせいか、例年は全国から小・中学校のPTA関係者数千人が参加するのが通例だが、関係者によると、今回は例年より少ない参加人数にとどまったという。
しかし、川崎大会は、認定NPO法人フリースペースたまりば理事長・前川崎市子ども夢パーク所長の西野博之氏による基調講演、大人が楽しく学びあう拠点「トーキョーコーヒー」代表の吉田田タカシ氏による講演をはじめコンテンツは秀逸で、参加したPTA関係者からは「非常に学びになった」という声が多く聞かれた。
金田氏は、日Pの専務理事時代から、実行委員会である川崎市PTA連絡協議会と、「前例踏襲から脱却して新しい形の全国大会にしよう」と準備してきたという。
「参加者全員が1会場に集結して1つのカリキュラムを学んだり、ITを活用して意見交換やワークをしたりなどの取り組みは、全国大会の新しい形として提示できたように思います。川崎市の実行委員会の皆さんの努力をたたえたいですね」
その一方で見えてきたのは、「文部科学省の日Pばなれ」だという。
「これまでの全国大会では、文部科学省の大臣もしくは副大臣が臨席するのが通例でした。しかし今回は、政務三役どころか担当局長も来賓としていらっしゃいませんでした。前代未聞です。ちなみに、同日に茨城県で開催された全国高等学校PTA連合会による全国大会には、当時の阿部副大臣が臨席しています。
さらに、毎年開催し、PTA活動で顕著な業績をあげたPTAや個人の方の表彰を行う年次表彰式は、これまで文部科学省と一緒に開催し、日Pによる表彰と文部科学省による優良PTAの表彰を同日に行っていました。しかし今年度から、文部科学省は単独で別日に行うことになりました。文部科学省は、日Pの一連の騒動を受け、距離を置こうとしているのは明らかです」
内閣府による報告要求、勧告の中身
2024年9月、内閣府公益認定等委員会が、日Pに立ち入り検査を実施。その結果、内閣府は「不適切な状況が確認され、公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力に疑義が生じている」として、行政指導。同年10月、日Pに対し「報告要求」を行った。
関係者によると、「報告要求」の文書には、
・ 事務局及び事務局次長が不在の状態が複数年生じている。
・ 印章管理規程によると、法人印、会長印、代表理事印、銀行印をそれぞれ保有しているように定められているが、現物確認を行ったところ、会長印、代表理事印、銀行印は同一のものだった。
・ 2023年度事業報告を承認する理事会開催が失念のために遅れ、総会までの期間が法定日数に不足している。
・ 役員変更後、2週間以内に変更の登記がされておらず、法定の役員変更届け出書が3カ月以上未提出である。
など、公益法人としての管理・運営能力、日P会館改修工事についての理事会の運営及び役員の認識について計9項目が記され、再発防止策を含めた報告書提出を求めた。当の日PのHPには、
「今回の立ち入り検査は、公益法人認定法に基づき概ね3年に一度行われる定期的な検査であり、運営の違法性を前提とした調査ではないと承知しております」という記載があったが、金田氏は、「私が専務理事のときの立ち入り検査では、軽微なもの数点の指摘のみでした」という。9項目もの報告要求は、公益社団法人としての存続の危機を感じさせる深刻な内容なのではないか。
「指摘事項にもあるように、この行政指導は、完全に現在の日P執行部の運営体制に問題があるがゆえのものです。現在の日Pは、公益社団法人でありながら、定款や一般社団法人法を理解せずに運営されているといっても過言ではありません。法人である以上、『知らなかった』ではすまされず、社会に対して責任を果たす必要があります」
その後日Pは、内閣府公益等認定委員会に、公益法人の管理・運営能力、日P会館改修工事についての理事会の運営及び役員の認識、今後の再発防止策について、報告書を提出した。
しかし金田氏は、「この数年間のことについて報告するはずなのに、日Pからは、この数年間の状況を一番把握している私に対し、何の聞き取りもありませんでした」と言う。
そして24年12月25日。内閣府公益認定等委員会は、日Pに対し、公益法人認定法に基づき運営状況を是正する勧告を出した。
「日Pからの報告内容は具体性に欠け、十分に議論された形跡も見受けられない」と指摘し、
・日P会館改修工事に伴い元役員が背任罪に問われている事件について、毀損した財産額や責任の所在、回復方法を明らかにし、再発防止策を策定する。
・継続的な法人運営を確立するため、事務局長をはじめとする役職者および事務員を確保し安定した事務体制を整備する。
などについて、今後1年以内にとる具体的かつ実効性のある計画を策定し、2025年3月31日までに行政庁に書面で提出することを求めている。改善がみられない場合、命令や認定取り消し処分になる可能性もある。
翌12月26日に日PのHPには、
「勧告の内容に真摯に対応し、改善計画の策定を進め、公益社団法人としての運営の適正化 ・改善に努めていく」という旨の記載があった。
「日Pは、組織を根本から立て直すしか再生の道はありません。2022年から2024年の3年間で何が起きたのか、私を含め、該当年度の役員を徹底的に調査し、役員全員が一度退く。そして、真摯に組織改革に取り組む意欲のある新しいメンバーで、組織を作り直したほうがよいと思います」
「日本中の保護者の代表」としての自覚を
一連の騒動により、近年、各都道府県や政令指定都市のP連が日Pを退会する事例が相次ぎ、会員数は減少の一途をたどっている。東京都PTA協議会、千葉市PTA連絡協議会、さいたま市PTA協議会がすでに退会し、今年度末には千葉県PTA連絡協議会も退会予定だ。
さらに、2024年9月、岡山県PTA連合会が「会員数の減少で活動の継続が困難になった」とし、都道府県単位のPTAとしては初めて解散することを表明、同年12月末に日Pから退会した。
今後、日Pがどうなっていくのかについては、知る由もない。
繰り返しになるが、日Pは政府や関係機関へ保護者の要望を伝える役割を持つPTAの全国組織である。現に、日Pの会長や顧問は「日本中の保護者の代表」として文部科学省中央教育審議会の委員、教育振興基本計画部会の委員等に選出されている。
改めて指摘するまでもないが、あえて記述する。日Pには、「全国の保護者を代表する組織」としての自覚を持ってほしい。
組織として膿を出し切る勇気と覚悟をもたず、その場しのぎの対応が繰り返されるようであれば、日Pの存在意義は、限りなくゼロに近づいていくだろう。
(企画・文:長島ともこ、注記のない写真:Luce / PIXTA)