保護者の不信感を募るPTAとお金のトラブル

PTAと「お金」をめぐるトラブルが、あとをたたない。

「東京都大田区立小PTAで600万円の使途不明金が発覚」
「名古屋市立小中学校にPTA会費から多額の寄付が明るみに」
「PTA会費など455万円着服、埼玉県越谷市のPTA元副会長 監査時に通帳見せず」
「さいたま市PTA協議会で485万円横領容疑 元会長ら3人逮捕」

2024年上半期だけでも、このような報道が世間を賑わせている。

これらの事件は、単なる不祥事ではなく、PTAに対する保護者の不信感を募らせ、組織の存続を揺るがす問題となっている。なぜこのようなトラブルが繰り返されるのか。 根本的な原因はどこにあるのか。学校のPTA、PTA連合会と、それぞれ検証していく。

各学校のPTAとお金をめぐるトラブルとして挙げられるのが、PTA会計担当者などによるPTA会費の無断引き出しなどの不正だ。この要因について、PTA問題に詳しい埼玉県公立中学校・事務職員の栁澤靖明氏は「組織の環境と決裁ルートの問題」と分析する。

栁澤 靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県公立中学校・事務職員
「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、社会へ情報を発信。研究関心は「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」など。ウェブサイト「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。主な著書に『学校事務職員の基礎知識』(編著、学事出版)、『隠れ教育費』(共著、太郎次郎社エディタス)など。2024年5月、新刊『教師の自腹』(共著、東洋館出版社)を出版
(写真:本人提供)

「任意団体であるPTAの本部役員や会計担当者、会計監査担当者は、企業の総務部のような“専門家”ではなく、会計業務に十分な知識や経験がないケースも少なくありません。また、PTA会費の出し入れや管理については、会計担当者がPTA会長や前任の会計担当者に相談する程度しか確認やチェックの体制がなく、決裁ルートが脆弱な側面もあります。

会計担当者は、PTA会費として会員から集まる膨大な規模の金額を扱うプレッシャーが大きい反面、『日々の生活や仕事が忙しい』『相談できる人が限られている』などの理由から、『(どうお金を管理するか)自分で判断するしかない』という状況に追い込まれてしまいがちです。

ある程度の組織が確立している学校は、事務室の近くに校長室があったり、学校会計担当の事務職員は決済の相談が校長と対面ですぐにできたりしますが、PTAの場合は、PTA会長も会計担当者もそれぞれの生活の中で活動しています。『LINEやメールのみで決済報告』など、正しさよりも利便性が重視されがちで、お金のチェックが甘くなりやすい環境が、事故のおこりやすさにつながっているのではないでしょうか」(栁澤氏、以下同)

PTAは「学校の第2の財布」か

以前より、一部の自治体において、PTA会費の一部でエアコンなど学校の備品を購入したり、プールの清掃費用を負担したりと、PTAから学校への寄付行為が問題視されている。こうした事例を受け、「PTAは学校の第2の財布か」と、批判的な報道が相次いでいる。

「学校には『PTAに頼んだら(PTA会費で)学校の備品などを買ってもらえる』、PTAも『学校から頼まれたら買ってあげないと』という、昔ながらの慣習のようなものが背景にあると捉えています。しかし、この問題の根底には、学校教育法の『設置者負担の原則』、地方財政法における『住民負担の禁止』という2つの法的な側面が大きく関わっています」

学校教育法第5条では、空調設備や学校家具をはじめとする備品など、学校運営や教育活動に係る経費は、原則として設置者=学校負担となっている。

また、地方財政法第4条の5では、「国(中略)は地方公共団体又はその住民に対し、地方公共団体は他の地方公共団体又は住民に対し、直接であると間接であるとを問わず、寄附金(これに相当する物品等を含む。)を割り当てて強制的に徴収(これに相当する行為を含む。)するようなことをしてはならない」とある。つまり、PTAが学校に寄付することは、法的に問題となる可能性があるということだ。

「『PTA側から自発的に学校に寄付したい』という場合は、自治体が定める関係規定に従い『寄附採納』の手続きをふめば寄付が可能になりますが、任意加入のPTAである(=集金の同意がある)こととあわせて、PTA総会で会員の総意を得るなどが必要です。このことも含め、PTA会費による学校への安易な寄付は法律に抵触する可能性があること、さらに、学校においては、制服やシューズにかかる入学準備費など、学校徴収金として予算化されず見えにくい保護者の教育費負担など『学校としてのお金の問題』が存在することも、知っておく必要があると思います」

PTA会費が、学校の裁量により給食費未納分の補填に

PTA会費の使われ方について、関東地方に住む保護者から驚くべき情報が寄せられた。「PTA会費が、学校の裁量により、給食費や教材費といった学校徴収金の補填に使われていた」というのだ。

2024年4月から子どもが通う小学校のPTA会長になった岩井利枝子氏(仮名)は、こう言う。

「新しくPTA会長に就任し、引き継ぎの際に昨年度の会計簿を見たら、気になる支出がありました。その支出の摘要欄を見ると、『給食費未納分の補填』と書いてあったのです」(岩井さん、以下同)

未納金をPTA会費で補填し、年度会計を締結していたことが発覚したのだ。岩井氏は続ける。

「さらに驚いたのは、PTA会費の通帳管理は学校側が行っており、PTA会長の承認なしにお金が出せる状況だったのです。決算の承認についても、校長先生、教頭先生が押印するスペースはあるのにPTA会長の押印スペースがありませんでした。PTA会費なのに、PTA会長の承認なしに、学校の裁量でお金が出せる状況だったことが明らかになったのです」

岩井氏によると、前任のPTA会長や会計担当者は未納金補填について気づかず、過去の会計でも同様の処理が行われていた可能性が高いという。

「前任の会長さんも会計さんも、くじ引きで仕方なく活動していた方とのこと。やらされている人がやると、『最低限のことだけしておしまいにしたい』という気持ちからチェックがおざなりになるもわからなくないですが、学校側がPTA会費の通帳管理を行い、会長の承認なしにお金を出せる状況はどう考えても不適切であると思います。今年度は、学校と対話を重ねながら、会計処理の不正を防ぐ体制を整備することはもちろん、PTAのあり方、PTA会費の見直しなどを行っていきたいと思います」

「お金のかからないPTA活動」を

学校のPTAとお金をめぐる問題を改善していくためには、どのような方法があるのだろうか。

栁澤氏は、さまざまな不正行為や寄付問題などの根底にあるのは、「PTA会費の存在そのもの」だと指摘する。

「PTA会費は、必要な活動資金を確保するための手段であって、活動の目的ではありません。『なぜPTA会費を集めるのか』という原点に立ち返り、PTA活動を“会費ベース”ではなく“活動ベース”で考える。例えば、僕が関わってきたPTAでは、これまでの会費ありきの活動を見直して規約を改正し、ここ10年くらい、その年ごとに活動に必要なお金を会員数で割ってPTA会費を決めています。年会費はその年により異なり、1000円から2000円くらいですが、300円まで削減された年もあります。

PTAの任意加入制が全国的に広がり、活動の省力化や適正化が進む今、PTAはたくさんのお金をかけて何かをする時代ではなくなってきているように思います。『お金のかからないPTA活動』こそが、現代社会のニーズに即しているのではなのではないでしょうか」

また、教員の負担軽減のため、文部科学省は、学校徴収金の会計管理は自治体が行うよう求めているが、依然として学校に任せている自治体が多い。そんな中、PTA会費を学校徴収金と一緒に引き落としてもらう“抱き合わせ徴収”を行っているPTAも多いが、「PTAと学校は、そもそも別団体です。本来ならば、PTA会費の管理に学校が関わるべきではありません」。

栁澤氏は続ける。

「メディアの報道などにより、PTAのお金の使われ方やPTA会費の管理の仕方に関心を持ち、『ちょっとおかしいのではないか』と疑問を感じている保護者は増えてきているように感じます。そういう方は、PTA総会の席で質問したり、議案に意見したりするなどの意思表示をするのが望ましいのですが、全体からみるとごく少数で、大多数の保護者は、『おかしいと思うこともあるけれども議論するのが面倒』『(そもそも)どうでもいい』という感覚でいるのが現状でしょう。

そんな中でも、思い切って声をあげ、こうした疑問や課題を草の根的に広げ、社会全体で考えていく風潮をつくっていくことが大切なのではないでしょうか。また、逆に提案する側のPTA役員も、質問や意見をいいやすい雰囲気をつくったり、それを受け止める風潮も必要ですね」

P連の使途不明金、最初は「領収書なし」の飲食から

続いて、学校のPTAが連なる「PTA連合会」(以下、P連)の使途不明金問題に移る。P連は、加入校PTAからの会費(分担金)に加え自治体からの補助金などもあり、収入が大きいぶん不正が起こるとその額も大きくなる傾向にある。

「P連のお金の不正は、最初は『領収書なしの飲食』などがきっかけになることが多いと思います」というのは、神奈川県横須賀市PTA協議会(以下、横須賀市P協)会長を6年間務め、2024年から同会顧問に就任した桜井聡氏だ。

「PTAは学校の応援団&市P協は単位PTAの応援団」をモットーの1つとして掲げ、健全な会計処理を行うことはもちろん、HP上にPTAの学校への寄付・寄贈などについての横須賀市P協としての見解を掲載するなど、PTA会計についての啓蒙活動を行っている。

P連の場合、組織の性質上、役員は連合会主催の総会や理事会、懇親会、上部団体に加入している場合は上部団体主催の会合に参加する機会が多い。

「それらの会合では、飲食を伴うケースも少なくありません。多くの方は、その席での飲食費は自腹で払ったり、所属するP連のルールに則り領収書をもらって精算したりしています。しかし、地域によっては、役員がP連専用のキャッシュカードを保有していることもあり、領収書を一切もらわず2次会、3次会と使い放題ということもあります。だんだん感覚がおかしくなってくるのか、P連のお金で自らの借金を補填するケースも見聞きしてきました」

「魔がさした」ではすまされないこれらの不正の要因は、「ひとえに監査体制が不十分であること」と、櫻井氏はいう。

「P連の会計は、通常は校長会や教育委員会から監査が入るはずですが、不正を行っているP連は、監査役の校長先生を意図的に外したり、会計監査を形式的にしているケースが見受けられます。年に数万単位の不正であっても、ずさんな会計監査が何年にもわたって続くと、使途不明金として雪だるま式に蓄積され、多大な額にふくれあがってしまうのです。ちなみに横須賀市P協では、会計監査は校長会が担い、年度末に出金伝票と通帳の突合を行っています」

P連の保険事業の落とし穴

P連によっては、児童生徒・PTA会員がPTA活動中に事故やケガなどをした際に備え、PTA保険の加入を斡旋する「保険事業」を行っているが、「この保険事業もお金のトラブルにつながりやすい」と櫻井氏はいう。

櫻井 聡(さくらい・さとし)
横須賀市PTA協議会顧問
2018〜2023年横須賀市PTA協議会会長、神奈川県PTA協議会理事を務め、2024年4月より現職。2014〜2021年横須賀市立荻野小学校PTA会長(7期)、2022〜2023年横須賀市立大楠中学校PTA会長。神奈川県警サイバーポリスサポーター、横須賀市社会教育委員、横須賀市防犯指導員などを務める。2023年公益財団法人日本PTA全国協議会会長特別表彰、2023年PTA活動振興功労者文部科学大臣個人表彰
(写真:本人提供)

保険事業の仕組みはこうだ。P連は、「団体扱い」として一定数以上の対象者(被保険者)がいる場合に、保険会社から「団体事務手数料」を受け取ることができる。これは、P連が保険会社の事務手続きを代行する代わりに受け取る報酬で、この手数料はP連の収益=活動資金となっている。

「この保険事業は、都道府県や政令指定都市など対象者(被保険者)の数が多ければ多いほど収益が大きくなり、会員数の多いP連では毎年1000万円を超えることもあります。しかし、多額の収益を扱うため、不正流用のリスクが伴います。また、本会計と保険事業の会計が分かれているため、本会計の不足分を保険事業の収益で補填するなどの不正が起きることもあります」

横須賀市P協は、2024年3月、神奈川県PTA協議会および日本PTA全国協議会を退会。これに伴い、2024年度より横須賀市P協独自で保険事業を始めるというが、「扱う金額が大きくなるため、保険事業開始に伴い毎月末に出金伝票と通帳の突合をしていく予定です。会計監査をしっかり行い透明性を確保しつつ、団体事務手数料の使途を明確に公開し、地域の子どもたちに還元される活動にお金を使っていきたいと思います」

健全なPTA運営のために

取材を通し、PTAと「お金」をめぐる問題のキーワードとして挙げられたのは、以下の5つだ。

・ PTA会費の存在
・ 会計、監査体制の不備
・ PTAと学校との“癒着的”な関係
・ P連における保険事業
・ 一保護者が「おかしい」と思ってもなかなか声があがらず届きにくい

 

これらの問題を改善していくためには、以下が必要になる。

PTA会費の見直し・削減:本当に必要な活動に必要な資金のみを集め、過剰な会費は徴収しない。会費ベースから活動ベースの会計へ

会計・監査体制の強化:専門知識や経験のある人が会計を担当し、監査を徹底する。

学校との適正な関係構築:学校への寄付は法令に基づき、透明性のある手続きで行う。

P連の健全化:「何のためのP連か」を問い直し、利益追求ではなく、会員や児童生徒に還元できる組織運営を行う。

当事者意識を持つ:PTA会計について疑問や課題を感じたら、総会等で声をあげるたりPTA本部に問い合わせる。

 

PTAは、児童生徒の健全な育成のために重要な役割を果たす組織である。しかし、お金の問題によって不信感が募り、組織の存続が危ぶまれるのは本末転倒なのではないだろうか。PTAの存在意義も含め、関係者全員が対話を重ね、これまでの運営を検証し健全な運営を実現していくことが求められている。

(企画・文:長島ともこ、注記のない写真: mapo / PIXTA)