青翔開智「自己肯定感」育む道徳を開発した深い訳 心理学や脳科学に基づくカリキュラムに刷新

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「デザイン思考」を取り入れた探究学習を展開する青翔開智中学校・高等学校(鳥取県鳥取市)。2014年の開校時からiPadによる「1人1台端末」の活用やグローバル教育にも力を入れ、18年度からは文部科学省の「スーパーサイエンスハイスクール」にも指定されている。そんな先進的な教育活動で知られる同校の新たな挑戦が、「道徳」の刷新だ。この春から中学校でスタートしたカリキュラムは、心理学や脳科学などの「エビデンス」に基づき開発したという。いったいどのような中身なのか、最新の取り組みを取材した。

探究学習の中で感じていた「打たれ弱さ」

昨今、子どもたちの「自己肯定感の低さ」や「心の折れやすさ」などが教育現場で課題視されているが、青翔開智中学校・高等学校校長の織田澤博樹氏も以前から生徒たちの「打たれ弱さ」や「引っ込み思案なところ」が気になっていた。

例えば、同校は探究学習に注力していることもあり(青翔開智「デザイン思考」の導入成果が凄かった)、グループやクラス単位で活動する機会が多いが、その中で友達と意見が合わなかったりすると、気持ちが沈んでしまう生徒がいるのだという。

「土地柄もあるのか、そもそも本校には他者を尊重しすぎる受け身な子が多いと感じます。その中でも、気にしすぎてしまうタイプの子が落ち込んでしまうのかもしれません。生徒たちがパッシブ(受動的)とアグレッシブ(攻撃的)の中間であるアサーティブ(※1)な状態になるにはどうしたらいいのか、といったことも考えるようになりました」と、織田澤氏は話す。

※1 自他を尊重した自己表現や自己主張ができる状態を指す

織田澤博樹(おたざわ・ひろき)
学校法人鶏鳴学園 青翔開智中学校・高等学校校長。日立製作所でエンジニアを経験した後、キャラクタービジネスの世界へ転身、玩具やミュージアムの企画を担当。2012年より同校の設立準備室室長。副校長を経て20年より現職

そんな中、能楽師・世阿弥の「目前心後(もくぜんしんご)」(目を前に見て、心を後ろに置け)という哲学に触れる機会があった。いわゆる「離見の見(りけんのけん)」の教えだが、織田澤氏はこう解釈したという。

「これはしなやかな心で俯瞰して自分を見ることで、現代風にいえばレジリエンス(※2)とメタ認知(※3)が備わった状態であると感じたのです。また、この2つのスキルがあれば、生徒たちはアサーティブな状態に身を置けるのではと思いました」

※2 元々は「弾性」を表す物理用語だが、近年では「困難な状況でも立ち直れる力」といった意味合いで心理学やビジネスなど幅広い領域で用いられる
※3 心理学用語。自分の認知活動を客観的に捉えていること

この課題に学校で取り組むとすれば「道徳だ」と考えていた矢先の2020年春、力久聖也氏が同校に参画した。

力久氏は大学院時代、児童生徒の発達課題を踏まえた支援への実践的・論理的研究を行っており、応用行動分析学に基づくPBIS(※4)というアプローチを用いて「安心できる環境を形成するための実践」というテーマに取り組んでいた。「まずは先生の声がけなどで子どもたちが教室に居場所を感じられるような枠組みをつくり、最終的には子どもたちだけでその環境を保てるようにしていく。そんな実践研究です」と、力久氏は説明する。

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