「国立附属校は良くも悪くも独立性が高く、世間の波風のようなものが入ってこない場所なんです。授業研究は、予算も含めて公立学校よりかなり大きな裁量がありますし、学会などでの発表も比較的自由に動けます。『どんどん外に出て積極的に活動してください』と背中を押してもらえるのは、公立学校ではなかった経験です」
公立学校では授業実数や予算の縛りが厳しく、授業の質にこだわって試行錯誤できる環境ではなかったという。とにかく教科書を終わらせることが目標で、それ以上のことを考えている同僚も少なかった。織田さんは、公立学校にも還元できるモデル授業を確立すべく、国立への異動を希望したのだ。
「一方で、『働き方』に対する意識は総じて低いです。公立学校では『長時間残業は良くない』という認識が広がっていますが、今の勤務校にそうした意識はあまり見えません。むしろいまだに、遅くまで残って頑張ることを美徳とする雰囲気が根強い印象です」
定期的に異動がある公立校と異なり、国立校は個々の教員に属人化されている業務も多い。それぞれの能力は高くてユニークだが、「ノー残業」など共通の意識で動くことは難しいのかもしれない、と織田さんは語る。百歩譲って、研究者としてはそれでいいのかもしれない。しかし問題は、国立校が多くの教育実習生を引き受けていることだ。
「教員不足が課題の今、ほかの職業より魅力を感じられなければ、教員のなり手は増えません。教員養成の場である国立附属校はなおさら、教員の魅力を学生に伝えなくてはならないはず。それなのに、働き方に対する考えが古いままで、労務管理もろくにされていない状態を見たら、教育実習生はどう思うでしょう。今のままで良いわけがないと、強く感じているところです」
織田さんのように、公立や私立から来た教員は比較的、国立校の役割に「地域学校への還元や橋渡し」を意識している。ところが、ずっと国立校にいる教員はそうでもないようだ。公立教員からも、国立校の取り組みは「どうせ出来のいい子たち相手だからできるんでしょ」と身構えられるという。実際、国立校の生徒たちの学力は高く、織田さんが授業中にする話のレベルが国立校ではかなり高くなったのは事実だ。
「しかし、日本の中学校の9割は公立校です。国立附属校は、毎年数十人から百人単位で教育実習生を受け入れていますが、そのほとんどは公立学校で教鞭をとります。国立校では、教育実習生にも発展的で新たな工夫を盛り込んだ授業をさせる傾向にありますが、まずは教科書をしっかり教えられるようにすべきだと思っています」
それは、授業だけでなく、労働環境についても同じだ。法で定められた労働時間を守り、やむなく発生した時間外労働への対価は適切に支払う。教員の卵にこそ、社会のルールがしっかり守られた現場を見せるべきだろう。国立附属校はむしろ、独立した組織として小回りを利かせられるからこそ、時代に合わせたアップデートに取り組める存在かもしれない。
(文:高橋秀和、注記のない写真:EKAKI / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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